ー日常ー街の住人達【8】

ー常春の国エメラダ:ミハイル宮殿ー

チコ「みごとに無意味ですね。」

ミハイル「その意味のなさが逆に不気味といえば不気味だがな」

チコ「意味のある妖怪はいないんですか?」

ミハイル「いるとも夜啼石」

【夜啼石】

遠州小夜の中山にあり、むかし孕婦(はらみおんな)この所にて盗賊のために害せされ子は子は胎胞の内につつがなく幸に成長してその仇をむくひしとかや。

チコ「ええと」

ミハイル「身ごもっていた女性が賊に殺されたが幸い子供は無事に成長し、ついには仇をうったという話だ。」

チコ「たしかに意味はありますけどそれって妖怪なんですか」

ミハイル「広い意味ではな」

ムーン1「意外と妖怪の定義って難しいな」

ムーン2「うむ」

チコ「じゃあ本当に怖いというか悪い妖怪は?」

ミハイル「怖くて悪い妖怪……小豆あらいかな」

ムーン1「ええっ、そんなのが怖いんですか?」

ミハイル「えっ」

ムーン1「あずきあずきあずきって笑うんでしょう?」

ミハイル「小豆わらいじゃない小豆あらいだ。深夜山奥の川で、小豆とごうかひととって食おうか、と歌いながら小豆を研ぐやつだ。」

ムーン1「へーえ」

ミハイル「実際柔らかい子供の肉が大好物らしい」

「「「うわっ、凶悪」」」

チコ「あまりお近づきにはなりたくありませんね。」

ミハイル「まったく。とにかく色んな妖怪が居るんだ。後神にしてからがなぜ人をコケさせるのかわけがわからない。なにが楽しいんだ。どんな意味があるんだ。見当もつかないから気味が悪い。」

チコ「そうですね。」

ムーン1「子供を食べるほど悪い妖怪ではないにしても。」

ムーン2「でも頭を打つのはやっぱりキツいですよ。」

ミハイル「意味はわからないが、しかしコケさせられることについてはひとつ対抗策がある。」

チコ「なにかアイディアが?」

ミハイル「名案だ」

チコ「それはどんな」

ミハイル「ふっふっ、後神に対抗する名案というのは、これだ。」

殿下が取りだしたのは紐のついたクッションだ。

「「「クッション!?」」」

ミハイル「これをこうやって頭に結べば、どうコケさせられても後頭部を打つ心配はない。」

チコ「ええっ!?名案てそれだけですか!」

ミハイル「アホ、天才の解決法はいつでも単純なのだ。」

頭にクッションを縛りつけて一歩踏み出したミハイルだったがそのまま見えない何かに引っ張られた形で前から地面へとずっこけた。
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