ー日常ー街の住人達【8】

ー東京:アラファト家政婦派遣協会ー

その日の真夜中、番頭は同じように人目を気にしつつ協会の裏口から出て行った。

お熊「案の定出たわね。追うわよ。」

マリア「はい」


~~


お熊「まずい!見失った!おマリちゃんがネズミなんかに驚くから!」

マリア「だってでっかいドブネズミだったんですよ!」

もめていると近くから猫の怒りを込めたような鳴き声が聞こえてきた。

「「……」」

二人は身を潜めてあたりをうかがうと、ひたひたと番頭が歩いてきている。しかも、手には弓と矢をもっていた。

マリア「番頭さんが弓矢を!」

お熊「決定的ね。」

マリア「どうします?」

お熊「もし彼が警察に捕まったら家政婦協会のたいへんなイメージダウン。仕事がなくなって協会がつぶれるかもしれない。」

マリア「そんなことになったら家政婦さんたち路頭に迷います。」

お熊「自首させても同じことでしょうね。逃がすしかないわね。国外逃亡を進めるわ。もし説得に応じなかったら闇から闇に葬りましょう。」

マリア「どういうことです!」

お熊「おマリちゃん死体を運ぶの手伝ってね。」

マリア「……!?」

お熊さんそれはいくら何でもと言いたかったが声が出なかった。その間にお熊は番頭へと近づいたのだが……。

「にゃー!」「みゃー!」「にゃぉー!」

番頭「おー、よしよし」

お熊「なんですこの猫たちは!?」

番頭「わーーっ!?お熊!それにおマリまで何をしている!」

お熊「いいから説明してください!」

番頭「なにって、わしの飼い猫たちじゃ」

「「はあっ!?」」

番頭「実は、わしは大の猫好きで捨て猫なぞを見るとほおっておけん。しかし、協会で飼うわけにもいかんので、この先に小さなアパートを借りて、そこで飼っとるんじゃ。先日来の矢猫事件には心を痛めておった、それで毎晩パトロールしたが、犯人を見つけることできなかった。しかし、きのう死猫が出るに及んで、もはや一刻の猶予もならんとこの猫たちを囮にしてわなを仕掛けたのじゃ。犯人はまんまとおびき出されおった。とっつかまえて理由を問いだしたところ犯人は大学生でキャットフード製造会社に就職が決まっておったが、不況のために内定を取り消されその腹いせに猫狩りを始めたそうな」

マリア「とんでもなく見当はずれの逆恨みですね。」

番頭「まったくじゃ。許されないことをやったわけだし警察に突き出そうともおもったが。しかし、なんといっても将来のある若者じゃ自分の行いがどんな残酷でひどいことか諭したら十分反省の色が見えたので猫を供養するように命じて開放してやったわけじゃ。」

マリア「そーゆーことだったんですか。」

番頭「そういうことじゃ。」

マリア「いきなり殺さなくてよかったですね。」

お熊「そうね。」

番頭「なにっ、どういうことじゃ。」

マリア「ええとですね……」

番頭「わしが犯人だとお持っとったー!?場合によってはわしを殺すつもりじゃったとー!?」

お熊「大丈夫ですよ。」

番頭「なにが大丈夫じゃ!」

お熊「あたしはひとを苦しませずに死なせる方法を知ってますから。」

番頭「なぐさめにもなんにもなるかー!なんちゅー危ない真似をさらすんじゃ!わしみたいな温厚な人間を捕まえてだいたいお前たちは……!」

番頭さんにこっぴどく叱られた二人でした。
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