ー日常ー街の住人達【8】

ー東京:アラファト家政婦派遣協会ー

翌朝はちょっとした騒ぎから始まった。

おばさん「ちょっとー!とうとう死猫(しにん)が出たわよー!」

おばちゃん「えっ、矢猫!?」

おばさん「そうよ!心臓を射抜かれて即死だそうよ!」

家政婦A「残酷なことするわねぇ」

おばさん「犯人は人間の皮をかぶったけだものよ!」

騒ぎに耳を傾けつつおマリはお熊にこそっと声をかけた。

マリア「……お熊さんちょっと相談が…」

お熊「えっ、番頭の鍋島さんが……矢猫事件の犯人!?」

マリア「いえ、そう断定するわけではありませんが……。しかし、飼っているはずのない猫の毛や昨夜の不審な行動から考えて事件となんらかの関係があるのではないかと……」

お熊「ふーむ。確かに、なにを考えてるのかわからない所のある人物だけど。まってよ猫と鍋島……何か引っかかるわね。猫……鍋島……鍋島騒動!!」

マリア「鍋島騒動!?なんですそれは?」

お熊「化け猫よ!」

マリア「化け猫!?」

お熊はパソコンを起動すると何かの検索をかけた。

お熊「あったわ。江戸時代の初期肥前(ひぜん)の国というから佐賀藩で実際にあったお話よ。藩主は竜造寺高房でも、藩の実権は重鎮の鍋島氏が握っていた」

マリア「えっ、ようするに家来がお殿様を差し置いて藩をコントロールしてたわけですか」

お熊「そう。家康も鍋島氏の肥前支配を認めていたそうだから、よほど有能だったんでしょうね。」

マリア「へーえ」

お熊「しかし、そうなると藩主としての立場がない」

マリア「でしょうねかざりものですもんね。」

お熊「そこで世をはかなんだ竜造寺高房は自殺を図った」

マリア「わちゃー。そんな弱腰だから家来に言いようにされたんですよきっと。」

お熊「まず奥さまを殺害し、自分も死のうとしたけれど、家来に止められでも結局はそのときの傷がもとで死んでしまった。それからよ佐賀藩で怪奇な事件が続出したのは」

マリア「と、いいますと?」

お熊「白装束に身を包んだ高房の亡霊が馬で城内を駆け巡ったり」

マリア「うわ~」

お熊「さまざまな怪奇や不吉なことが連続したわけだけど最終的には高房が飼っていた猫が化け猫に変じ鍋島氏に復讐しようとしていた事実が判明して最後に化け猫は鍋島の家臣のひとりに討たれた。これが鍋島騒動よ。もし番頭さんが鍋島氏の子孫で、もともとおかしかったかそれともあたしたちと社長の間に立つ中間管理職のストレスから精神のバランスを崩したか、それはわからないけれど、とにかく化け猫つまり猫を退治するのが自分の役目だと思いこんでしまったとしたら、矢猫事件を引き起こした可能性は十分考えられるわ。」

マリア「どうしましょう」

お熊「今晩から番頭さんを見張るのよ」

マリア「はあ…」
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