ー日常ー街の住人達【8】

ー東京駅:周辺ー

おマリは鉄道警察から飛び出すと走りながらお熊の携帯に連絡を入れた。

マリア「誘拐事件が起きなかったら若奥さまは死んでたんです!ひょっとしてあやの様をだっこしていたら二人とも亡くなってたかもしれません!お熊さんこれは偶然でしょうか!」

お熊『そうは思えないわ。須磨さんだっけ?お宅に向かった方がいいわ、そんな気がするわ。』

お熊の直感を信じて、おマリは須磨家へと駆けた。玄関をくぐると、そこにはベビーカーが置いてあるではないか。

覗きこむとすやすやと寝息を立ててあやのちゃんは眠っている。

抱きかかえて家の中へと飛び込んだ。

マリア「あやの様がもどられましたー!」

旦那様、若奥様、大奥様は一瞬硬直したがすぐに駆け寄ってあやの様を抱きしめた。

雪江「あやのちゃーーん!」

たかし「あやの!あやのぉっ!!よかったぁーーー!」

マリア「玄関にベビーカーが置いてあったんです。」

大奥様「いったい誰が……ハッ!?」

大奥様はおマリの後ろに目を向けてなぜか驚いた。振り返ってみると着物姿の老女か微笑んで立っている。

老女「君子さんお久しぶりですね。」

君子「……!?」

君子というのは大奥様の名前だった。すると全身の力が抜けたようにへたり込んでしまった。

老女「お嫁に来たとき、あなたはお料理もお掃除も何もできなかったわね。」

君子「……全部、お義母様に教えていただきました。」

老女「若い人は、なにもできなくて当然なにも知らなくて当たりまえ。それを教えてあげるのが大人のつとめですよ、仲良くね。」

微笑みを崩さずに着物の老女は、そういい終わるとスッと消えていった。出ていったのではない、文字通り消えてしまったのだ。

マリア「お義母様といいますと」

君子「主人の母よ。20年前にお亡くなりになった……」

マリア「!!」

君子「とても厳しいお義父様との間に立っていつも優しく励ましてくださった……なのにわたしは……わたしは……雪江さんに……」

お奥様は両手を顔を覆って静かに泣いた…。



マリア「きのうはお義母様の命日だったそうです。」

お熊「命日には霊魂がこの世に戻ってくるというわ。」

マリア「戻って来てみたら若奥さまが……孫息子のお嫁さんが大変なことになりそうなので霊魂はこれから起こることが分かるのかもしれませんが…それで姿を現してあやの様を連れ去って」

おばちゃん「その結果、悲惨な事故を未然に防いだ」

家政婦A「不思議な話もあるものねぇ」

お熊「とにかく今回の教訓は」

マリア「なんです」

お熊「お墓参りはしたほうがいい」

マリア「そうですね。ひねりはありませんが。」
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