ー日常ー街の住人達【8】

ー鴨井家:リビングー

旦那様と奥様があたりを探しまわってきたが一向にお嬢様は見つからなかった。

それから数時間、警察から一本の電話が入った。

『駅に向かってフラフラ歩いているのを目撃されています。駅からどこへ向かったか調査中です。現在、鉄道警察と……』

電話を受けていた旦那様の顔は真っ青だった。


~~


どうすることもできなく、リビングでは重たい空気のまま時間だけが過ぎていく。

おマリは何度となくみずきお嬢様の携帯にかけてみたが。

マリア「(ケータイの電源は切られたまま。)」

旦那様「……」

奥様「……」

ああ、耐えがたい雰囲気の中で不安な時間だけが過ぎていく…。

そのとき、玄関の方でかすかに物音がした。

マリア「もしや!」

ドアを開けると暗い顔をしたお嬢様が帰って来ていた。

みずき「……」

マリア「お嬢様!」

旦那様「みずき!」

奥様「よかったー!どこへ行ってたの心配してたのよー!」

マリア「ホッ、とりあえずすぐに暖かいお茶を入れますね!」

お茶を入れる頃には皆ようやく少し落ち着いて、お嬢様はポツリポツリと話し始めた。

みずき「あの有名な岬に向かったの…死ぬつもりで…」

「「「……」」」

列車の中にはあたしひとりきり…。ふと見ると目の前の座席に一冊の本が落ちてたの。タイトルは「ライラックのかほり」。神様も皮肉ね。こんなあたしに最後に読ませるのが純愛小説だなんて。

そう思ってぺらぺらとページをめくっていくと……。

なにこれ……世の中にこんなくだらない小説を書く人がいるわけ?きっと、その自称作家は恥も知らずに、のうのうと生きてるんだわ。それなのにどうしてあたしが死ななきゃいけないのよ!

みずき「そう思ったら死ぬのがバカらしくなって……ごめんなさい。帰ってきました。」

旦那様「なにをあやまる帰ってきて正解なんだ!」

奥様「もう馬鹿なこと考えちゃダメよー!」

親子三人、抱きしめ合って涙を流した。みずきお嬢様もきっとやり直せることだろう。


~~


マリア「ということで、事態は一件落着となりました。」

おばさん「お熊の本も、とんだひと助けねぇ。」

おばちゃん「お熊には話したの?」

マリア「知らせようかとも思ったんですが説明の途中にどうしても、「あまりのくだらなさに」というフレーズが入るのでどうしようかなーっと」

おばさん「ま、いいかほっといても」

おばちゃん「変に自信を持たれても困るし。」

それから数日もしないうちに

マリア「結婚詐欺が逮捕されたそうです。お嬢様もショックから立ち直ったそうです。」

おばさん「よかったわね。」

マリア「ところで、お熊さんは?」

おばちゃん「二冊目をし執筆中よ」

マリア「大丈夫かなぁ。」

おマリの心配通りパワーアップしたバカバカしさに、さすがの読者も呆れたのか2冊目は返品の山だったそうです。
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