ー日常ー街の住人達【8】

ー東京:鴨井家ー

ある家に家政婦として派遣されたおマリですが、そのときはちょうど鴨井家のお嬢さんがボーイフレンドを連れてきて婚約の挨拶を済ました場面だった。

青年「ハッハッ」

お嬢さん「うふふっ」

奥様「ホホホッ」

旦那「……」

朗らかに笑い合う三人とは違い旦那様だけは仏頂面のままだった。


~~


仕事が終わりアラファト家政婦協会に帰ると今日の話を家政婦仲間に話してみた。

マリア「という感じで、、その時のだんな様の苦い顔といったら」

おばちゃん「ひとり娘をお嫁に出す父親なんてそんなものよ。」

おばさん「どんな良縁でもねぇ」

おばちゃん「良縁なの?」

マリア「お嬢様のみずき様は○○女子大日本文学部を卒業して丸の内で働く才媛。お相手のひろし様はT大医学部卒で現在新居兼病院を建設中の若きドクター」

おばさん「うわお」

おばちゃん「こてこての良縁ね」

おばさん「あたしも20年くらい若返ってそんな素敵な男(ひと)にプロポーズされてみたいわ」

おばちゃん「百万年がとこ若返ってアンモナイトにでもプロポーズされたら?」

おばさん「なんですってー!!」

おばちゃん「なによぉーー!!」


なんてことがあったりして、数日後……


マリア「えっ、お熊さんが本を出す?とはいったい……」

おばさん「ひそかにケータイ小説を書いていたそうよ」

おばちゃん「それが若者に大人気で今度書籍化されるんですって」

マリア「へぇーー……お熊さんにそんな才能があるとは知りませんでした。すごいですね。」

お熊「能ある豚は真珠を隠すのよ」

マリア「はあはあ能ある猫は小判を隠すんですか。」

お熊「能ある馬は耳に念仏を隠すともいうわ。」

マリア「そんなことはどうでもいい。その小説を読んでみたいのですが」

お熊「ちょうど見本が届いたからあげるわ。」

マリア「ありがとうございます。みんなで床の中で読ませてもらいます。」

お熊「あとで感想を聞かせてね。」

住み込みの家政婦以外は教会に寝泊まりします。協会は宿舎、家政婦たちはタコ部屋と呼ぶ部屋で雑魚寝です。

布団も敷き終わり、床についておマリは本を開きました。

マリア「さあ、読ませてもらいましょうか」

おばちゃん「楽しみね。」

マリア「タイトルは「ライラックのかほり」都内の高校に通う女子高生、かほりさんが主人公の純愛物語か。お熊さんらしい少女趣味の設定だなぁ。」
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