ー日常ー街の住人達【8】

ー東京青山:本丸家ー

再び本丸家に戻ると既に人気がなくなっていた。本来なら、葬儀が終わってもしばらくは色々と騒がしいものだが、あんなことがあった後だ……誰も気まずくて残るに残れないだろう。

棺を前では奥さまがひとり座っている。

マリア「奥さま」

奥様「えっと…」

マリア「臨時の家政婦です。突然ですがお願いがあります。」

奥様「……何かしら、急用で無いのなら遠慮していただきたいのだけど。」

おマリは急用であるといって、聞いてきたことを全部説明した。

マリア「…というわけで、お金がないとあの子は死んでしまうのです。お気持ちはわかりますがなにとぞ奥さまの方からお金を…」

奥様「そんなお金を出すいわれがどこにあるの」

静かだが刺すような怒りを込めた声。

マリア「で、ですから人道的観点から」

奥様「世界中の男を呪い殺したい私に人道主義を説くつもり!」

ついに怒鳴りだされてしまった。いや、それは無理もない……。

マリア「わちゃ……いや、いきなり納得していただけるとは思ってません。でも、人の親として、同じ母親として子供を失いかけてる。あの方の辛さをわかってください。」

奥様「ふんっ」

今日はこれ以上何を言っても聞き入れてもらえないだろう。

マリア「明日また説得しに来させていただきます。」

奥様「無駄よっ!何度来てもね!!」


~~


怒涛の一日が終わり。胸糞の悪さと腹立たしさが渦巻きながらも奥さまは床へと着いた。

マリア『同じ母親として…』

一瞬おマリの言葉がよぎったものの、フンッと首を振って頭から布団をかぶって眠りについた。怒り疲れていたのだろう、すぐに寝息を立て始めた。

奥様「すぅすぅ…………ううっ……ううっ……ひーちゃん!!」

真夜中、涙を流して飛び起きたのだった。


~~

翌日…

マリア「おはようございます。ダメもとで説得に参りましたー。私もなんとか200円ほどは頑張り……」

奥様「病院へ案内してちょうだい」

マリア「……パードゥン?」

奥様「いいから!」

マリア「は、はい!」

一夜にして何が起こったのか知らないが、連れいけというので奥さまを病院へと案内した。そして、例の女性を呼び出すと通帳と印鑑を差し出した。

奥様「二千五百万あります。足りなければいいなさい。」

若い女性「!!」

奥様「子供が元気になったらたずねていらっしゃい今後のことについて相談しましょう。」

若い女性「奥さま!ありが……うぅっ……ありがとうござ……!ワアァァァっ!」

何度も何度もお礼を伝えながら女性は本気で泣き崩れた。
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