ー日常ー街の住人達【8】

ー東京青山:本丸家ー

マリア「えーと、ひろ美お嬢様」

ひろ美「はい……あなたは確か家政婦協会の?」

マリア「はい、今日呼ばれたものですが、そのさっきの女性がコートも大切な書類も忘れていっちゃってまして。書類の住所を頼りにひとっ走り、届けにいってきます。」

ひろ美「そうご苦労様……若い貧乏な頃は両親も仲が良かったらしいけど…ここ何年も会話をしてる姿を見てないわ。」

マリア「何かの雑誌に貧乏なほど夫婦仲がいいと書いてありました。」

ひろ美「そんなものかもね。母はしょっちゅうお茶の会だ観劇だと家を留守にして……あの子、小さく見えるけど4歳ぐらいかしら、4年前とすると母が友人と長期間海外旅行にいってた頃よ。もちろん父のやったことは許されるべきではないけど……でも、もし母が父に寂して思いをさせていたのだとしたら……」

そこでお嬢さんは言葉を切った。

マリア「大人の世界は複雑だなぁ。」

そうぼやきつつコートと書類をもって住所を訪ねた。小さなアパートで管理人さんに女性の部屋を聞こうとしたのだが……。

管理人「ああ、あの人なら今はお留守だよ。娘さんが入院したらしくてね。」

マリア「えっ、入院!?」

管理人「発作が酷くてねかかりつけのお医者様のところに」

マリア「どこですか!!」

今度はかかりつけの病院に向かった。看護婦さんに話を聞いてみると

看護婦「お母さんは付きっきりで看病を……えっ、先生に話を伺いたい?」

なんとか話を聞かせてもらえることになり現状のことを聞いた。

お医者先生「今までに無い発作で心臓が駄目になりかけている。よほどショックなことでもあったのかね?」

マリア「え……まあ」

お医者先生「だましだまし持たせてきたが今度ばかりは……」

マリア「なんとかならないんですか!」

お医者先生「帝都医科大に、あらゆる手術を得意とする柳医師がいる。彼に手術してもらえば間違いなく助かる。しかし、このままではあとどれくらい持つか……」

マリア「じゃあ手術をしてもらいましょう!」

お医者先生「簡単な手術ではない、金がかかる。」

マリア「私も全財産をカンパします!」

お医者先生「二千万ほどだが」

マリア「……ちょっと足りない」

お医者先生「いくら足りない」

マリア「千九百九十九万九千九百円」

お医者先生「帰ってととっと寝てしまえ!」

マリア「弱ったなぁ。聞かないうちならともかく聞いた以上はほっとけない……。」
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