ー日常ー街の住人達【7】

ー常春の国エメラダ:ミハイル宮殿ー

その日、ミハイルは珍しく執務室でひとり書類を書いていました。ペンの走る音だけが響く室内にひと吹きのそよ風が舞い込みミハイルの頬を撫でる。

ミハイル「はて、風で開いたのかな?」

振り返ると大窓が少しばかり開いていた。ペンを置いて窓を閉じて振り返ると、そこには全身灰色の制服を着たムーンが立っていた。

「殿下」

ミハイル「独立グレームーン!」

グレームーン「はっ!お久しぶりです!」

グレームーンとは精鋭ムーン部隊の中でもわずか数名しかいない特殊な存在。

独立の名の通りミハイルの命令で動くのではなく、あくまでも自分の意思と判断で行動する個性的なムーンです。

ミハイル「あるものは国際的テロ組織アルカイダに潜入しあるものはソパリアの海賊行為をテーマに取り組んでいる。おまえは?」

グレームーン「ぼくのテーマは勧善懲悪です。」

ミハイル「かんぜんちょーあく?ドアが完全にチョー開くということか」

グレームーン「そうですって、ちゃいまんがな」

ミハイル「ノリツッコミの腕は落ちてないな。テーマの説明を」

グレームーン「強くきをくじき弱きを助く。この一年ほどフランスを中心にヨーロッパ全土で巨悪を倒し弱者を救う活動を続けていたのです。」

ミハイル「聞くからに頼もしいな。けっこうけっこう、久しぶりに帰ってきたわけだがこれからどうする。」

グレームーン「しばらくはエメラダで活動します。」

ミハイル「それはなによりまずは?」

グレームーン「まず手始めにエメラダ銀座をパトロールします。」

ミハイル「え~と、エメラダ銀座~?というと……」

顔をあげるとグレームーンは既にいなくなっていた。

ミハイルに気取られない身のこなしはさすがというしかない。

それにしても、エメラダ銀座をパトロールするという、あんな所に巨悪があるのか……。

きょあく、きょあく、ドアが今日開く。

我ながらつまらないと書類仕事に戻ろうとしてハッと気がついた。

もしかしたら直売所に気がつくかも、と……。


~~


グレームーンは制服姿から一般の旅行客のような格好に変装してエメラダ銀座に溶け込んでいた。そして、目についたのは【ダイヤ直売所】という看板。

グレームーン「あれはたしか以前殿下が……」


~~

ミハイル『わが国でとれるダイヤは極めて品質がいいがすべてがそうというわけではない。中には、そこそこではあるが国際的な取引に馴染まない低グレードのダイヤもある。そういうものを売るアンテナショップ的な店をつくったらどうだろう。』

チコ『と、いいますと?』

ミハイル『低グレードの石を安く売ることによって国民にエメラダの基幹産業であるダイヤに親しんでもらいたいと思うのだ』

ムーン1『なるほど、それはいい考えですね。』

~~

グレームーン「そんないきさつでできた店だ。」
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