ー日常ー街の住人達【7】

ー大英博物館:出入り口ー

後は扉を施錠して脱出するだけと、大風呂敷を担いだ典型的な泥棒スタイルで外に出ると、闇夜に浮かぶ小さな火種と鼻腔をくすぐる甘い香り……。

柏「……」

壁にもたれ掛かり鋭い視線を向けている男と目があった。

ミハイル「えーと……わーーっ!」

背負った荷物を投げ捨てて逃げだした。

柏「待て!!」

ミハイル「なんでお前がこんな所にいるのだーーっ!?」

柏「俺だって来たくなかった。というか、逃げるんじゃねぇ。」

威嚇射撃なしに一応相手は国王でも関わらず柏は三度発砲する。

ミハイル「ひぇぇっ!」

対してこちらもただの子供ではない。銃弾を避けて近くの木に登って逃げる。

ミハイル「どうして僕がここにいるとお前が呼ばれるんだ!

柏「ここり館長と俺は知り合いなんだよ!」

木から木へ飛び移ろうとするのを阻止するように銃口でミハイルを追う柏。

ミハイル「話をはしょるな!それでなんでお前がここにいるのかわからん!」

柏「今夜残業で残っていた館長の所へ警備員が泥棒が入ったと知らせにいったんだ。」

~~

警備員『大変です!ロボウです!』

館長『なにドロボウ!?』

慌てて展示室にいってみると

警備員『あれです』

館長『おや?あれは……』

ミハイル『どうしょっかなーもったいないなー』

かねてから俺(柏)から話を聞いていたし新聞の写真で顔も見知っているエメラダの国王がダイヤを片手にウロウロしていた。

館長『国王が泥棒?まさか…』

警備員『捕まえますか?』

館長『いや待て手をださずに見張っていろ。いきなり警察沙汰にして国際問題になったら大変だ。』

~~

柏「そして俺に電話が入った。お前なら泥棒をやりかねないから射殺してくれてもかまわんといったがどうしても無理だといって、しかたなく来たわけだ、ボケ。光臣!!」

柏が鋭く叫ぶとまるで闇から突然生まれ出たように長身の男が現れて自身の体躯よりも長い刀で大木を払い抜いた。

ズドドッと音を立てて木は横倒れになりバランスを崩してミハイルも地面に落下する。

ミハイル「ぐぇっ!」

柏「盗んだものを返せ。もしくは死ね。」

万力のような力でミハイルの頭を鷲掴みにして釣り上げ後頭部に銃口を押し付ける。さらに喉元には銀刃の切っ先が突き付けられている。

ミハイル「わーん!もとはといえばエメラダのものなんだー!」

柏「エメラダのものがどうしてここにあるんだ!」

ミハイル「それは僕が売り飛ば……あわわっ!わーーん!」

さてミハイルの立てた完璧な静の計画がなぜ失敗したのでしょう。まちがいは小麦粉の代わりに塩を使ったことです。

ミハイルが他の物を盗んでいこうかどうしようか迷っている間に塩が湿気を含んで潮解(※)してしまったのです。吸収した水分はごくわずかでしたが敏感な装置はその微妙な重量の変化をキャッチして警報を発したというわけでした。

※:個体が大気中の水分を吸収して溶けること。

結局レッドスターは取り返されてこっぴどく怒られたミハイルでした。


~~


ムーン1「やはり地道に訴訟を起こした方がいいな。」

チコ「誰がチューリッヒのオークションに売り出したのか調べて辿っていけば初めにレッドスターを盗んだ犯人も分かるかもしれません。」

ミハイルの知らないうちに調査は進みました。いずれミハイルは因果応報という言葉の意味を身をもって知ることになります。

めでたしめでたし
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