ー日常ー街の住人達【7】

ー東京広尾:ビストロ温泉ー

転太「はっはっは」

マリア「あーびっくりした!あーびっくりした!!」

お熊「山坂さん!!」

転太「おマリが怖がるから揶揄ったんじゃ。続けよう。」

好奇心が勝った若い者が女の後をつけたら墓地の辺りで見失う。

『おぎゃあおぎゃあ』

どこからともかく赤ん坊の泣き声が、声を頼りに掘り返してみたらお棺の中で水あめを買いに来ていた女の骸に抱かれて赤ん坊が元気に泣いていたそうな。

マリア「……」

転太「つまり昔は土葬だったから身ごもってるのを知らずに女の遺体を埋めたところ地の熱気で生まれてしまい我が子を死なせたくない母親の愛情が幽霊となって水あめを買い求め子供に舐めさせたわけじゃ。以前は三途の川の渡し賃として棺の中に必ず銭を六文入れたのでそれを集めて飴を買ってたわけじゃな。ちなみにその赤ん坊は寺に引き取られ、のちに徳の高い立派な僧侶になったとか」

お熊「……」

転太「なっ似ておるじゃろう。水あめの代わりに赤ん坊に砂糖水を飲ませていると考えれば。」

マリア「あのおばあさんが」

お熊「子育て幽霊?」

マリア「そうでしょうか?」

お熊「なんだかピンっと来ないわね。だいたい子供を産むような年齢ではないし赤ん坊に飲ませるならはじめからミルクをもらいに来るんじゃないかしら。」

転太「幽霊が本当は何を考えてるかなんてことは知らんよ、じゃそういううことで」

帰ろうと席をたつ転太の背中に声をかけた。

お熊「山坂さん!肝心の住かは!?」

転太「わからん。霊界への道なぞわしがその場に居らぬ限りあとから分かるわけがない。また現れたら連絡をしてくれ。わしが尾行してみよ、それじゃ」

そして本当に帰ってしまう。

マリア「案外役に立ちませんね。」

お熊「ただ酒飲まれただけじゃないのぉーーー!!」

次におばあさんが現れるなんていったいいつになるのやら、とため息をついた、その夜。

店が終わったころ、また裏口がノックされる。

マリア「はい?」

「すみませんがまたお砂糖を」

マリア「来たーー!!」

お熊「山坂さんに電話を!」

急いで携帯番号に連絡を入れたが……

『……電源が入っていないか電波の届かないところに』

マリア「ほんっと役に立たないっ!!」

お熊「もういいわ!おマリちゃんお砂糖を早く!ふたりであとをつけるのよ!」

マリア「はいっ!」

そしておばあさんを追ってまた不思議な世界へ……。
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