ー日常ー街の住人達【7】

ー東京広尾:ビストロ温泉ー

転太「丁寧に置かんか」

お熊「商売ものを飲ませたうえにいきとどいた接客までできますか」

転太「サービス精神のない店だ。んっ、おっ、良い酒だな。」

そういいながらグビっと喉を鳴らして、そういった転太だった。

お熊「酒どころ新潟から名酒を取り寄せてますから」

転太「なるほど、どうりで美味いわけじゃ。で?わしに酒をふるまうために呼んだわけではあるまい。要件とはなんじゃ」

催促しといてよく言うわという言葉を呑み込んでお熊が言った。

お熊「つまりおマリちゃんが言ったようにフワフワモヤモヤして結局おばあさんの住かを突き止められなかったんです。怪奇班の首席調査官、山坂さんならなんとかできるんじゃないかと思って……」

転太「ばあ様の住かを知りたいわけか」

お熊「そうです」

話を聞きながら山坂は残りの酒を一気に飲み干した。

転太「ホントいい酒じゃ、しかし」

お熊「しかし?」

転太「もうカラじゃ」

カラになった湯飲みを振る。お熊は額に青筋を浮かべていった。

お熊「おかわりお持ちして」

マリア「どうぞ」

転太「悪いな。なんだか催促したみたいで」

マリア「思いっきりされたように感じるのは気のせいでしょうか」

嫌味を聞き流して転太はひと口また喉を潤すとポツリポツリと話し出した。

転太「手掛かりはいくつかある。砂糖を欲しがるということと赤ん坊の泣き声じゃ。江戸時代に似たような話があってな「子育て幽霊」じゃが」

お熊「子育て幽霊…」

マリア「江戸時代に生きてたんですか?」

転太「わしゃいくつじゃ。本で読んだんじゃ」

江戸の町のはずれの飴屋の戸を夜中にたたく者がいる。

戸を開けてみると髪をザンバラに振り乱した青白い顔の女が立っていて水あめを売ってくれという。

それから毎晩、水あめを買いに来るのだが女が現れるのはいつも決まって丑三つ刻で、しかも代金として置いていくのが長いあいだ地中に埋もれていたかのようにさび付いた一文銭ばかり。

マリア「ちょっと待ってください。これって怖い話ですよね。だったら私は遠慮したいんですけど」

転太「なぜ」

マリア「夜中にトイレにいけなくなるんです。」

転太「怪談をやっとるわけじゃない安心せい。さて、そんなことが続いたある夜のこと気味は悪いが好奇心の方が勝った店の若い者が女の後をつけようとしたとき主人が呼び止め口を耳に寄せてな」

マリア「はあはあ」

転太「こういったのじゃ」

マリア「はあ」

転太「ワアーーーッ!!」

マリア「ぎやーーーー!!」
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