ー日常ー街の住人達【7】

ー東京広尾:ビストロ温泉ー

次の日、お店が終わっておマリが生ごみの後片付けをして、外のゴミバケツに入れていると、背後から声をかけられた。

「あのー」

マリア「はい?」

女性の声だった。振り返ってみるとヨレヨレボロボロのフードをかぶったわりと大柄の女性らしい。

「たいへんぶしつけですが……いただかせてもらえないでしょうか。」

身なりからしてホームレスかなにかのは一目瞭然。お腹が空いてゴミでも漁りに来たのかもしれない。

マリア「お腹が空いているんですか?残り物でよかったらご飯と肉じゃがが少しありますよ。」

「いえその…できましたらお砂糖を」

マリア「砂糖!?」

「はい、お砂糖をいただきたいのです。」

ときどき、こういう人が現れることは確かにあったが砂糖が欲しいというのは珍しい。甘党なのかな……?

マリア「商売柄台所に砂糖はいっぱいあります。差し上げますよ。」

「本当ですか!まあ、うれしい。」

安堵したのか女性はフードを取ると中から現れた顔は、昨日お熊さんが見せてくれた写真に写っていた女性……つまりは、お熊さんのお母さんだった。

マリア「ッ……待っててください!」

女性「はい」

一瞬息を飲んだが冷静な対応で返事をして店の中に戻ると、大慌てでお熊さんを呼んだ。

マリア「お熊さんたいへんです!すぐ降りてきてください!」

内線で呼び出すとドタドタと会談を駆けおりてくる足音が響いた。

お熊「たいへんってなに!?ドロボウ?火星ゴキブリ?税金の取り立て?!なんなのをーー!」

目の前に現れた物体は顔中に泥のような真っ黒な物を塗りたくった化け物だ。

マリア「きゃーーーっ!出たな妖怪くらえっ!」

ポケットから通販で買った御札を取りだして化物の額へと貼りつける。

お熊「ギャアアアッ!ってさせないでよ。パック中に大変ってなんなのよ。」

あー、心臓に悪いと思いつつもマリアは裏口の小窓を指さしていった。

マリア「ちょっと外をのぞいてみてください」

お熊「なによ……ママン!?」

マリア「そっくりでしょう?他人の空似ですけど実は……」

さっきまでの事を説明すると

お熊「まぁ、お砂糖を……変わったホームレスの方ね」

マリア「そうなんです」

お熊「おマリちゃん、お砂糖を差し上げてきて、そしたらあたしが後をつけてどこに住んでるか調べるわ。ママンに瓜二つのあの方のお力になって差し上げたいわ。」
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