ー日常ー街の住人達【7】

ー東京広尾:ビストロ温泉ー

おマリがお店を掃除していたら何かがキラッと光ったのに気がつきました。それを拾ってお熊さんにたずねました。

マリア「これお熊さんのじゃありませんか?」

さっき拾ったものを手に乗せて差し出す。やや年季は入っているが宝石がちりばめられたペンダントだ。

お熊「ああっ!さがしてたのよどこにあった!?」

マリア「玄関の傘立てのかげに」

お熊「そうか古い品だからチェーンが切れてころがったのね。見つけてくれてありがとう。これは母の形見のロケットなの」

マリア「……燃料は?」

お熊「言っとくけど空を飛ぶロケットじゃなくてよ」

マリア「えっ、それじゃもしかして!海中を進む対潜水艦用ロケット弾!?」

お熊「この形状を見てよくそんな発想ができるわね。」


マリア「超超小型最新兵器じゃないんですか」

お熊「古い品だといってるでしょう。だいいち何が悲しくてあたしがそんな物を持ってなくちゃいけないのよ。ちがうわよ。あなたが言ってるロケットはRocket、これはLocket」

マリア「Lで始まるロケットってなんです?」

お熊「おもに写真を入れておくためのペンダントよ」

大きな指でロケットの小さなスイッチを押すとパカッと開いて中に写真がおさまっていた。

マリア「……」

写っているのは初老を超えたぐらいの女性なのだがお熊さんとよく似ている、いや、似すぎている。これから年を取れば確実に瓜二つになるだろうというぐらいに……。

お熊「子供のころ故国の内戦で死に別れたママンの写真よ。これ一枚しか残ってないの。」

マリア「そっくりですね。」

お熊「あらいやだ。そんなお世辞ばっかり。」

マリア「え?」

お熊「あたしにそっくりということはとびきりの美女ってことでしょう。亡くなったママンにそんなおべんちゃらをいわなくてもいいのよ。うふふっ」

マリア「言ってないけどなぁー」

お熊「でも、もちろんあたしに似て美人だってママンを褒められて悪い気はしないわ。娘としてお礼を言うわ。」

マリア「(あのまったく立脚する根拠のない自信はどこからくるんだろう)」

お熊「それにしても……なんだか思いだしちゃったかな。夢でもいいからママンに会いたいわ。」

マリア「……」

お熊さんの言葉を聞いて自分自身、両親と死に別れたおマリもその晩はしんみりしてしまいました。
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