ー日常ー街の住人達【7】

ーロンドン:大使館ー

「ホホホのホ」

奇妙な笑い声が聞こえた方へと振り向くと先ほどすれ違った猫を頭に乗せた男が居た。

ミハイル「おまえはさっきの!どこから入った!」

猫をかぶった男「入り口から」

ミハイル「まんまだなー」

猫をかぶった男「袖すり合うのも多生の縁。私、こういうものです。」

名刺を差し出してきたので受け取るミハイル。

ミハイル「諺難(げんなん)研究家ドクター=コトー=ワザー」

チコ「げんなんってなんです?」

コトー「水で起こる災難が水難。諺で起こる災難が諺難です。」

チコ「諺で起こる災難なんて聞いたことないですよね?」

ミハイル「例えば?」

コトー「例えば!」

突如ぼわんっと闇そのものを大きく円形に切り取ったようなものが現れてミハイルの顔の前に留まった。

ミハイル「なんだこれは前が見えない」

コトー「一寸先は闇です。自動車(くるま)の運転中こんな諺に憑りつかれたらとても危険です。」

ミハイル「運転なんかしないからいいが」

蠅でも払うように闇の塊を散らす。

コトー「感動したり悲しくて泣いてると蜂の大軍に襲われたり」

ミハイル「泣きっ面に蜂」

コトー「溺れてライフジャケットを掴もうとしてもワラしか掴めなかったり」

ミハイル「溺れる者は藁をもつかむ!」

コトー「明らかなことがあると火を見ることになり、つまり火事になって焼け死ぬことは!」

ミハイル「火を見るより明らか!!」

コトー「こんな諺難に皆さんは憑りつかれかけているのです!!」

チコ「殿下、無理やりって気もしますが確かに恐ろしい話です!」

ミハイル「対処法はないのか!」

コトー「ひとつだけあります!」

ミハイル「なんだ!」

コトーはカバンに手を突っこむと中から明らかにカバンの体積を越えた杖が出てくる。

コトー「転ばぬ先の杖です。これを持ってればどんな危険も回避できます!今なら格安でお譲りします!」

ミハイル「買ったー!いくらだ!」

コトー「一億円」

ミハイル「いちっ!?杖一本が一億円だと!?」

コトー「焼け死ぬよりマシでしょーが。」

ミハイル「百円にまけろ!」

コトー「一億から百円オマケするので?」

ミハイル「百円にしろといっとるんだ!」

コトー「こんな大胆不敵な値切り方をされたのは初めてだなぁ……って、アホ!そんな無茶苦茶な話があるか!ひだ一ルピーまからんわいっ!」
10/100ページ
スキ