ー日常ー街の住人達【6】

ー平尾:ビストロ温泉ー

シャドーボクシングならぬシャドー接客にシャドー調理です。

1階のビストロ(西洋居酒屋)をおマリひとりで切り回せればお熊さんは3階の3階のエステ・整体に専念できるのです。

今までの実績から考えてもおマリなら楽にこなせると思われましたが念のためシュミレーションを行っているのでした。

ところが……

お熊「どうしたのおマリちゃん1時間をこえたらガクッとスピード落ちたわね。」

マリア「ゼェゼェッ……お湯です。」

お熊「お湯?」

マリア「お湯の中を歩くのが意外に大変で」

お熊「あっ、そうか水中歩行をしてるようなものだからお湯の抵抗が体力を奪ってしまうのね。」

マリア「この調子でひとばん働く自信はありません。」

お熊さんは立ち上がってマルタのような太い足でお湯をかき回す。

お熊「……確かにけっこう来るわね。」

マリア「でしょう」

お熊「お湯の抵抗とは予想もしなかったわ。こんな盲点があったなんて……とはいってもオープンは一週間後ときまってるのよ。チラシもできたしタウン誌にも広告をのせてしまったわ。なんとかクリアーしなくては」

マリア「どうします?」

その夜2人はアイデアを出し合って夜中までディスカッションしました。

お熊「まずこの足湯は絶対に外せないわ。なんといってもうちのお店の最大の「売り」なんですからね。」

マリア「とするとどうやって抵抗を小さくするかですが……」

お熊「うーん……そうだ!竹馬はどうかしら?」

マリア「竹馬?」

お熊「ほら大道芸人がよくやってる。あれを足につけて歩くのよ。それなら竹一本の抵抗で済むから自由に動き回れるわ名案だと思わない?」

マリア「お言葉を返すようですが」

お熊「なにか不都合でも?」

マリア「わたしはそんな曲芸みたいなことはやったことはありません。」

お熊「おマリちゃんなら器用だからきっとすぐに習得できるわよ。」

マリア「仮にできたとして、給仕だけならともかく調理のたびにつけたりとか脱いだりしいたらすごく時間をロスすると思います。」

お熊「あっ…」

マリア「それにしたがお湯ですからね。なにかの拍子にすべったら……お客さんの頭の上にぶちまけるのが刺身や酢の物ならまだしも熱い肉じゃがだったりしたら」

お熊「シャレにならないわね。お湯に飛び込んでも派手に飛び散るでしょうし」
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