ー日常ー街の住人達【6】

ー平尾:ビストロ温泉ー

ビストロ温泉の開店に向けてお熊さんとおマリは大忙しです。今も注文からの配膳の流れをテストしてみようとしています。

お熊「それじゃあいくわよ。」

マリア「どうぞー」

お熊はテーブルについて、おマリは少し離れたところから返事をした。

お熊「レディーゴー」

お熊がストップウォッチのスイッチを入れる。

マリア「いらっしゃいませ。ビストロ温泉にようこそ、ご注文はお決まりですか?」

お熊「えーとまず生を2つね。それとカツオの土佐造り、牛肉のカルパッチョ、もずく酢に茶わん蒸しにいぶりがっこ……待って」

急にストップウォッチを止める。

マリア「どうかしたんですか?」

お熊「二人で決めたメニューだけど、口に出して注文してみるとなんかつまらないわねぇ。せっかく新機軸の温泉付き居酒屋なのにお料理が定番すぎるわ。」

マリア「というと?」

お熊「センスオブワンダ―つまり驚きがないのよ」

マリア「お客様がおどろく料理ですか……。トドの生け作りとか?」

椅子から滑り落ちそうになったお熊。

お熊「トド!?そんなもの作れるの」

マリア「ですからとりあえずメニューに載せておいてもし注文があったら……」

~~

お客『話のタネに食べてみよう。おーい、トドの生け作りひとつ』

マリア『そちらは少々お時間をいただきますが』

お客『少々ってどのぐらい?』

マリア『2週間ほど。なにしろこれから北の海へトドを捕まえにいって空輸して検疫を済ませてなんやかんやで最短でも2週間はかかるのです。お値段も二百万になります。』

お客『!?』

~~

マリア「こういえばだいたい諦めるでしょう」

お熊「シャレの分かるお客でないとぶん殴られそうね。」

マリア「高度なギャグですからね」

お熊「まあいいわメニューについてはあらためて検討しましょう。つづけて。」

再びストップウォッチが動きだす。

マリア「はい復唱します。生ツー、カツオ土佐牛カルもずに茶わんにいぶりですね。」

お熊「はしょるわねぇ。」

注文を受けてざぶざぶと足湯の中を進み、調理場へと移動して、トントン、シャッシャッ、盛り付けと一連のエア工程を終えて、再びお熊の元に戻っていく。

マリア「おまちどうさま。」

そこでいったんタイマーストップ。

お熊「3分20秒悪くないタイムだわ。さあ続けてみるわよ。」

マリア「はーい。」
97/100ページ
スキ