ー日常ー街の住人達【6】

ー常春の国エメラダ:ミハイル宮殿ー

チコ「日本だと今は梅雨ですけど、こっちはホント常春ですね」

ムーン1「国王の頭も春だからねぇ」

「「あはははっ」」

ミハイル「……」

「「えっ」」

向こうから歩いて来ているのは頭が春のミハイル殿下である。しかし、逆さまだ。

そう、歩いているコッコッと足音もしている。だが地面に頭がついていて短い脚が空中を踏みしめているのだ。

その異様な姿を見てチコ達は……土下座した。

「「すみませんでした」」

ミハイル「ん?」

チコ「心当たりはありませんが、わたしらがなにかしでかしたのでしたら、御許しを」

ムーン1「お願いですから、その不気味な、というかわけのわからないパフォーマンスをおやめください。」

ニッと笑うとひっくり返った。

ミハイル「これは「逆転モドキ」または「逆転ごっこ」だ」

チコ「そのココロは?」

ミハイル「人間の眼はレンズだから、見たものは網膜に逆転して投影される。それを頭脳というコンピューターがデータ処理して、つまり頭のなかでもう一度逆転させて正しい像になるわけだ。この装置を持ってると、その頭脳の働きが阻害される。要するにぼくは普通に立っているんだが、お前たちには逆立ちして見えるわけだ」

チコ「面白いもの造りましたね。」

ムーン1「でもなんのために?」

ミハイル「アホ、何年ぼくの部下をやってるんだ。ぼくのやることに意味があるわけないだろが!」

ムーン1「ごもっともでございます」

ミハイル「しいていえばおまえたちをビックリさせて喜びたい」

チコ「できればよそで喜びを見出していただけませんか?」

などと言っているうちにミハイルはまたひっくり返った。

ミハイル「ぞすかどおをなんみあさ」

ムーン1「……」

チコ「あっ、逆転してるから」

ミハイル「?っえ」

チコ「「さあみんなをおどかすぞ」をわざと逆さにいったでしょう」

装置を切ってまた逆転するミハイル。

ミハイル「なんだって?ぼくは普通に喋ってたぞ」

ムーン1「ええっ?確かに逆さでしたよ?」

チコ「ええ、間違いなく」

ミハイル「変だな。もしかしたらこの装置は視覚だけでなく聴覚も阻害するのかな。だとしたら、おまえたちのセリフがぼくには逆さに聞こえるはずだがまともだったし」

チコ「ご自分がつくった装置がどう働くかわからないんですか」

ミハイル「こないだ自動大根おろし機を作ろうとしたら自動殺人ビーム発生装置ができてしまったからなぁ」

チコ「恐ろしい…」

ミハイル「やいいあま。ハッハッ」

ムーン1「笑い声までさかさだ。」
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