ー日常ー街の住人達【6】

ー東京:広尾ー

お熊とマリアは結局例の古い倉庫を借りることにしたのだが。今は幕が張られガガガッと工事の音が響いてくる。

マリア「建て直すとは思いませんでした。」

お熊「古い倉庫のままじゃ商売にならないわよ。3階建てのビルになるわ。そのために家政婦協会から資金を借りたの。なんと2億円!」

マリア「ふーん」

お熊「大金なのにおどろかないわね。」

マリア「百億の借金背負ってるから2臆くらいじゃビクともしませんよ」

お熊「それもそうか」

マリア「それでどういう商売をやるか決まったんですか」

お熊「せっかく都心の一等地に温泉が出たんだから、これを売り物にしない手はないわ」

マリア「ですね」

お熊「温泉付きのブティックとか温泉付きの宝石店とか温泉付きの代書店とか」

マリア「温泉付き代書店?」

お熊「色々考えて結局温泉付きのビストロに決定したわ」

マリア「ビストロっ!!?」

お熊「えっ?!」

マリア「ってなんです?」

お熊「分からんならおどろかないよーに。コホン、フランス風のこじゃれた居酒屋のことよ。温泉といえば究極の癒しの空間、そこでおマリちゃんの美味しい料理を提供すれば日々の生活に疲れたOLやサラリーマンの格好のくつろぎ場になるわ。大繁盛まちがいなしよ!」

マリア「皮算用はタヌキをとってからにしませんか?」

お熊「面白いこと言うわねぇ。勝算があるから言ってるのよ。お店に入ったお客さんにはまず靴を脱いでもらうわ」

マリア「ああ、それからメガネや腕時計を外してもらって洋服を脱いでもらって最後には体中に塩をまぶしてもらって」

お熊「はいはい注文の多い料理店。じゃなくて、靴を脱いだらそのまま店内に入ってもらうと「足湯」になってるのよ。」

マリア「へぇ、そりは新機軸かも」

お熊「でしょう、都内にスパや温泉施設も多いけどいずれも浴衣に着替えたりして結構手間がかかるもの、そこへいくと足だけでも簡単に温泉に入れる手軽さは忙しい現代人にぴったりよ。フットマッサージが流行しているおかげで足をリラックスさせる効果はよく知られてるしね。」

マリア「なるほど」

お熊「さらにこの方式の巧妙なところは」

マリア「はあ」

足湯のおかげで身体があたたまり血の巡りが良くなる効果、酔いのまわりがはやくなって……。

お熊「ついつい飲み過ぎてしまうのということはお酒がたくさん売れて儲かるわけよ。」

マリア「ははあ、考えましたね。」
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