ー日常ー街の住人達【6】

ー広尾:一軒家ー

善は急げのお熊さんに連れてかれたのは広尾、確かに一等地ではあるが目の前にある建物は控えめに言ってボロ屋だ。

思わず声が漏れる。

マリア「うわぁ……」

ここへ案内してくれた不動産屋のお兄さんが入り口を開けていった。

「昔日本軍が倉庫として使っていた建物だそうで外観はこんなんですが」

マリア「中はきれいなんですか」

「中も似たようなものです」

マリア「日本語の使い方がまちがってませんか?」

「こんな物件ですが、なにしろ立地がいいので借りては次々にあらわれましてね。この前はブティック、その前は学習塾でしたた」

マリア「それにしちゃ荒れてますね。」

お熊「そのひと達が商売をやめた理由は?」

「やめたといいますかちょっとした不都合がありまして」

マリア「どんな?」

「経営者が全員行方不明になったんです」

マリア「お熊さん帰りましょう!」

お熊「他に不都合は?」

マリア「ちょっ!!」

「ありませんそれだけです。」

マリア「それだけでおつりがくるでしょーが!!」

お熊「いいわ。借ります。」

マリア「ノォォォォ……おっ?」

頭を抱えて叫んでいると、普通の部屋の中には見慣れない、円状の蓋らしきものがある。

お熊「部屋の中央にマンホール?」

「いえ、多分この下に地下室があってその入り口だと思うんですが中からロックされてるらしくて開かないんです。まあ無理に開けない方がいいと思います。」

マリア「なぜ!」

「なんとなく。では、どうぞごゆっくり」

不安しか残らない言い方をされて不動産屋はとっとと帰ってしまった。

お熊「さあおマリちゃん今日からここがあたしたちの城よ。キッチンもあるし、二階には小部屋もあるから寝泊りもできるわ。」

マリア「……」

お熊「まず寝具を運び込まなくちゃ明日から自分たちで改装しながらどうやってビストロの付加価値をつけるか考えなくちゃならない。忙しくなるわよ!」

マリア「ハァ~~~~……」

お熊「さー、とっとと寝るわよー」

その夜かび臭い小部屋で寝袋にもぐりこみながらお熊さんとのコンビを組んだのは間違いだったかもしれないと考えるマリアでした。

で、翌朝になってみるとお熊さんの姿が消えてました。

マリア「だからぁーー!いわんこっちゃないお熊さんどこへ行ったんですー!」

建物内を上から下まで駆け巡って探しているとくぼみに足を引っかけてスッ転んでしまう。部屋の中央にくぼみ?と思ってみてみると例のマンホールが蓋がずれている。
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