ー日常ー街の住人達【6】

ー東京:某所ー

夢前マリアは不幸である。どのぐらい不幸かというと借金百億を背負っているぐらいである。

ことの始まりは、日本橋にある、江戸時代から続く老舗呉服問屋「夢前屋」のお嬢様として生まれながら、実の母とはマリアが生まれる前に死に別れ、たよりにしていたお父さんはそれはもう無能な男で、人の口車にのせられて手を出した不動産投資に失敗!!

百億の借金を残してあっけなく死んでしまいました。

マリア「ああ、私はなんて薄幸な美少女なのだろう。両親は居ないわ、家は人手に渡るわ、借金はあるわ、ケツはかゆいわ」

普通ならこれだけ不運が重なると前途を悲観して目の前が真っ暗になってしまうものですが。

生きてればいいこともあるし何とかなるだろう。

マリアはくじけません。人並み外れたバイタリティーの持ち主だからです。

バツグンの行動力にものをいわせて親戚やお父さんの古い友人や仕事関係の知り合いなどを片っ端から尋ねてみましたが……。

マリアが莫大な借金を背負っていることはすでに知れ渡っていて、どこへいっても門前払い。

酷いときには塩をまかれたこともありましたが……。

逆の立場だったら自分も同じことをするかもしれない。いや、私なら塩の樽ごとぶつけるかもしれないと平然たるものでした。


それで結局、5年前に亡くなったおじいちゃんに戦争で命を助けられたというアラファト家政婦派出協会の会長さんが同乗してくれて、家政婦として働かせてくれることになったわけです。

そして働くうちにセンパイ家政婦のお熊さん。本人は女性だと言い張っているので家政夫ではなく家政婦です。

コンビを組むようになり、先日までアメリカで代理奥様業などをやってもうけていたのですが……今回日本へ帰ってきたのを機に新しい仕事を始めてあらためてひとかせぎしようと画策しているところなのです。

お熊「んー」

マリア「お熊さん新しい商売のアイディアはまだ出ませんか?」

お熊「そう簡単にはいかないわよ。あたしたちが儲けるということは命より大切なオゼゼを他人様に、はきださせることなんだから」

マリア「ですね」

お熊「第二次大戦中だっけ協会(うち)の会長があなたのおじいちゃまに命を助けられたのは」

マリア「ええレイテ沖海戦で」

お熊「それをよほど恩に着ているのか、そしてあなたとコンビを組んでるあたしにも自由裁量を認めてくれてるわ。通常の家政婦業務でなく自分たちで商売をしても受ける自由をね。でも裏を返せば全部自分たちでやらなくちゃいけないということだから」

マリア「大変ですよね。」
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