ー日常ー街の住人達【6】

ー常春の国:エメラダ宮殿ー

他に身寄りのないマヌエルを引き取り一緒に暮らし暮らすようになってから2週間、マヌエルにもようやく笑顔が戻ってきたある雨の日の夜のこと……。

家路につき玄関のチャイムを鳴らす。

マヌエル『誰!?』

ヘルムート『僕だよあけてくれ』

マヌエル『ああ!お帰りなさい!』

濡れているにもかかわらずマヌエルはヘルムートに抱きついてきた。まるで何かから怯えているように……。

ヘルムート『おいおい、いきなり抱きつ濡れちゃうよ』

マヌエル『だって怖くって…』

確かに雨足も激しく雷もゴロゴロと音をたてている。

ヘルムート『怖いって雷が?小さな子供じゃあるまいし』

マヌエル『そうじゃなくて……あの……言わなかったんだけど3日ほど前から窓の外に時々伯父様に似た人が経ってるの!』

ヘルムート『……君はまだショックが抜け切れて』

そのとき、ピンポーンっとチャイムが鳴った。誰だろうと思いつつヘルムートがドアへと手を伸ばす。

マヌエル『開けないで!』

ヘルムート『えっ、なにを言っているんだ怯えることはないよ。きっと水道料金の集金人だ』

しかし、扉を開けた先にいたのは刃物を構えた伯父だった。そして、何も言わずにナイフを突きつけてくる。

マヌエル『きゃぁぁっ!』

ヘルムートは傘立てから一本かさを抜くと伯父の目元を叩き切った。

伯父『ぐあっ!!?』


~~

リスボン「話を聞いていると君は手近にあるものを武器として使う名人だな」

ヘルムート「必死だったんだ。無我夢中で争って気がついた時には……」

伯父の持っていたナイフを奪い取って心の臓腑へと突き立てていた。

そして、調べてみればよく似た他人なんかじゃない間違いなく死んだはずの彼だった。何がなんだかわからなかったけれど……でも、もう警察に知らせることはできなかった。

リスボン「どうして…」

ヘルムート「だってそうだろうこれは誰だといわれて2週間前に死んだ人物です。なんて言えるかい?」

リスボン「それは…」

ヘルムート「しかたないので雨にまぎれて死体を裏庭に埋め、荷物をまとめてその晩はホテルに泊まったんだ。翌日休暇届を出してアルプス地方へ向かった山荘でも借りて景色のいいところでマヌエルを静養させるつもりだったんだが、ところが山荘についたとたん……」

屋根の上に潜んでいた伯父が飛びおりて来てヘルムートの首に縄をかけてきた。力いっぱい絞められ呼吸が止まりかけた、その時、マヌエルが薪で伯父を殴りつけた。

衝撃で縄が緩みヘルムートも近くにあった石を掴んで伯父を殴り続け……。

最後は岩で頭を潰して埋めた……。だがとてもそれで安心する気にはならず。しばらく各地を転々として、エメラダなら安全かと思って帰ってきたのに、また先回りされていたなんて……どうして僕たちの行き先が分かるんだ!どうして死なないんだ!!
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