ー日常ー街の住人達【6】

ーアメリカ:安ホテルー

お熊「いいからやるの!」

マリア「でも…」

お熊「オゼゼ稼がなくちゃ明日からジャガイモも食べられないのよ」

マリア「ジャガイモが続きましたからしばらく食べなくてもいいですけど」

お熊さんは空になったバケツを持ちあげる。

お熊「買いだめしといたイモが底をついたといってるの!!このままじゃ日干しになっちゃうのよ!!」

マリア「わー!わかりました!わかりましたっ!!」

お熊「がるるるっ!」

狭い部屋の中でバケツを振り回されて危うくヘッドショット寸前。

そんなこんなでその日の夜、マリアは化粧を施してホテルのバーカウンターの席についてノンアルコールドリンクをひとくち飲んでため息をついた。

マリア「とほほ、美人局(つつもたせ)とは」

~~

お熊『ホテルのバーで暇そうにしてるとスケベ心まるだしの泊り客がきっと声をかけてくるから、適当に話を合わせてお部屋で飲み直したいわとか言って誘って』

マリア『誘って?』

お熊『軽くイチャイチャしてなさい』

マリア『イチャイチャねぇ……』

お熊『そしたらあたしが飛び込んで……「その女はボスの愛人よ!ボスにバレたらハドソン川に浮かぶことになるわよ!」とか何とかいって示談に持ちこんで儲かるわけよ』

マリア『それって犯罪なんじゃ』

お熊『生きるためには少しぐらいドロボウ根性が必要なのよ。』

~~

マリア「奥様稼業でもうけるつもりがやることがだんだんセコくなるわねぇ。」

「失礼、お隣よろしいですか?」

清潔なボブカットにシルクのスーツ。控えめに言ってもいい男だ。

マリア「どうぞ」

お熊「ひっかかった。」

席について数分、朗らかに笑いあえる程度に打ち解けるとマリアは聞いた。

マリア「そう、ライオネスさん。ここにとまってらっしゃるの?」

ライオネス「最上階のスイートに、あの……いつもこんな風に女性に、とは思わないでください。あなたがあんまり美しいので一番苦手なバンジージャンプに挑戦するつもりで声をかけたのです。」

マリア「まあ?」

ライオネス「恥ずかしながら高所恐怖症で」

マリア「少し疲れたわ。お部屋で休みません?」

ライオネス「おおっ……あっ、とても素敵な提案ですが実は明日のフライトがめちゃめちゃ早くて」

マリア「パイロットさんなの……えっでも高所恐怖症じゃ?」

ライオネス「コックピットに入ると落ち着くんですよ。同僚には泳げない船乗りみたいだとよくからかわれるんです。」

マリア「まぁ、ほほほっ」

ライオネス「明後日には中東から帰ります。その時もう一度会ってくれますか?」

マリア「楽しみにしてるわ。」

ライオネス「よかったそれじゃあ。」

そういってバーから出ていくと、お熊さんがそっと後ろに立つ。

お熊「Ok。念のためにどの部屋に泊まってるか見てくるわ。おマリちゃんはあとひとりかふたりひっかけといてちょうだい。」

マリア「すごくいいひとですよ。だますのは気が引けます。」

お熊「オゼゼのためよ。」
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