ー日常ー街の住人達【5】

ーアメリカ:某所ー

「オーマイガッ!」

妻が若くてハンサムなテニスのインストラクターと駆け落ちした。

置手紙を残して「バイ、さがさないでね」簡単な別れのメッセージのコンテストがあったらきっと上位入賞できるだろうが……。

そんなことを言っている場合ではない。明日は大切な記者会見があるのに、夫婦そろって登場しないと格好がつく無いのに、もちろんそれを承知の上で姿をくらましたのだ。仕事にかまけてこの三か月妻を放っておいたわたしへの復讐のために……。

しかし、困ったことをしてくれた……。

毒づきながら棚に飾られた写真たてには黒髪に金のメッシュが入った少女とも見える妻が笑顔を浮かべていた。


~~


ー東京:アラファト家政婦派遣協会ー

お熊「おマリちゃん仕事よ」

マリア「ありがたいです!お熊さん助かります!不景気のせいかこのところまとまったお仕事がなくて」

お熊「みたいね。最近ずっとくすぶってるもの」

マリア「家政婦としての長期契約なんかほとんどありませんね。あるのは単発のお仕事だけ……パートタイムばかりです」

こう嘆いているのは夢前マリア13歳の少女ですが父親の借金を返済するため家政婦として働いています。

お熊「100億円だっけお父さんが不動産で失敗して残した借金。」

マリア「ええ、それを毎月10万円ずつ一万五千年かけて返すんです。」

お熊「冗談みたいな話よね。」

マリア「それが本有なんです。銀行としては少しずつでも返してる間は不良債権にしなくて済むわけですから。」

お熊「とにかく処理を先送りにしたいわけね。日本の銀行ゆがんでるわねえ。それはともかくお仕事よ」

マリア「はい、内容は?」

お熊「アメリカ人実業家の奥さん」

マリア「……はいーーー!?」

お熊「まあ、当然の反応でしょうね。アメリカの若手実業家が日本の外食産業に参入しようとしているの。明日マスコミを集めて長期計画発表を兼ねた記者会見をするんだけど、奥さんが病気で倒れたそうなの。」

マリア「記者会見に奥さんも出るんですか」

お熊「ファミリーがターゲットのファーストフードらしいから夫婦そろって出て家族的な雰囲気を演出したいんでしょうね。アメリカ人の考えそうなことよ。でもそういう事情だからマスコミに代役の件を嗅ぎつけられちゃ困るイメージダウンになっちゃうからね。そこでアラファト家政婦派遣協会、うちに話がきたの守秘義務。つまり仕事の秘密を守ることに関してはうちは有名だから。なんたってときどきCIAの仕事も任されるくらいだもの、大きい声じゃいえないけど」

マリア「(CIAが家政婦にどんな仕事をさせるんだろう)」

お熊「もしうちのスタッフに奥さんに似たひとがいなければ外部を当たったところだけど、いたわ適任者が」

そういってお熊が差し出した写真を見てみると、細部は違うが自分とうりふたつの女性のスナップがうつっていた。
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