ー日常ー街の住人達【5】

ー白金商店街:観光案内所ー

観光所の電話がなった。

絵里「はい、もしもし?」

七津川『一条さん?そっちに庭園美術館のチケットまだ残ってる?三人分』

絵里「あ、はい。まだありますよ」

七津川『そう、じゃあこれからお客様にそちらに足を運んでいただくからお渡ししてほしいの。建築家のフランク様とスンデルハウスの社員お二人。夕食までの時間が開いたので近くをご案内したいんだって。』

その連絡を受けて少ししてからフランクと社員の二人が案内所にやってきた。

絵里「では、こちらでございます」

「ありがとう」

絵里はチケット渡して三人を見送り終えたあと、手元に一枚のチケットが残っているのに気がついた。

絵里「北斎さん、はいこれ」

北斎「ん?」

絵里「せっかくですからお供させてもらって場所を覚えてきてください。今後のこともありますし少しでも方向音痴を直さないと。」

北斎「やれやれ信用無いんだなぁ。」

絵里「一本道でも迷子になるような人の何を信用しろと……」


~~


いわれた通り、庭園美術館へとやってきた北斎は、例の三人の後ろを邪魔にならない位置についてついていく。

「ここはもともと王族の朝香宮様の邸宅だったんですよ。庭園は芝生広場、日本庭園、西洋庭園と三つのエリアに分かれています。」

フランク「ほう茶室がありますね。」

「「光華(こうか)」というらしいですよ。」

フランク「都心だというのにこれだけの大木があるとは驚きです。」

「そうですか」

立ち止まって茶室を眺めるフランクの足元に北斎の目がとまった。

「この木は三笠宮様がお植えになったそうですよ」

フランク「ミカサノミヤ?」

「ここに書いてあります」

フランク「ふむ、なるほど」

フランクが立てかけられた説明を読んでいる間も北斎はずっと足元を注視していた。そしてやや残念そうな、表情を浮かべた。

「美術館の中も見てみましょう。今は香水瓶の展示をやってるようですよ。」

フランク「ふーむ香水瓶なんか今まで注意して見たことがありませんでしたがこうしてみると美しいものですね。」

「そうですね」

「こちらはエジプトのもので紀元前3000くらい前のものらしいですよ。」

フランク「ほう」

「その後、マイセンなどの陶磁器の香水瓶などが流行して今のようなガラスの瓶が出来上がったのは18世紀ごろ18世紀に香水を扱う専門店が生まれパリだけでもその数は200展を超えていたと書いてありますね。」

説明のたびに足を止めて美術館を進んでいく。

フランク「ここからはもう現代のもののようですね。」

「シャネル…クリスチャンディオール。ゲランの「夜間飛行」」

フランク「……」

北斎「……」

「では、そろそろお時間ですからホテルに戻りましょう。」

フランク「そうですね。実に楽しめました。」

「そうですか」

美術館から出ていく三人の背後で北斎はひとり顎に手を当てて考え込んでいた。
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