ー日常ー街の住人達【5】

ー商店街:テナントー

商店街のある家族に食事に誘われて北斎は夕食をご馳走になった。

おじさん「いやぁ、北斎さんたちの案内所ができて賑やかになりましたよ。」

おばさん「おかわり、いかがですか?」

北斎「あ、もう充分いただきました。ありがとうございます。今日はすっかりご馳走になってしまって。」

おじさん「いやいや何もなくて申し訳ない。」

北斎「クスッ」

おじさん「ん?」

北斎「いえ、日本の方ってごちそうがあるのに必ず「何もないですが」っておっしゃるでしょう?未だに慣れなくて」

おじさん「日本の方?」

北斎「ええ、僕は両親は日本人ですが生まれも育ちもロサンゼルスですから。日本には中学生の時に一度だけで……」

おじさん「へーえ、そうなんだ」

おばさん「それじゃ日本に来て食べるもので苦労してるんじゃありません?家庭料理でお口にあったかしら?」

北斎「いえ、大変おいしくて驚いています。」

おばさん「まあ、大げさな」

北斎「特にこの唐揚げ。何か食べたことないスパイシーな味と香りが…」

おじさん「柚子胡椒ですよ。祖母直伝の我が家の秘伝料理です。」

北斎「秘伝料理……いいですね、そういうのって」

「ただいまー、あら?」

北斎「……」

おじさん「娘です。ほら、商店街コンシェルジュの北斎さんだ。」

北斎「あ、こんばんわ。北斎十条です。」

なごみ「二宮なごみです。ここの二階で和風フットエステ「和(なごみ)」をやっています。よろしく。」

北斎「フットエステ?」

なごみ「はい。足裏マッサージもやってましてわりと評判いいんですよ。よかったら一度いらしてくださいね。」

北斎「わぁ……素敵な娘さんですね。」

おじさん「ん?そうかい?」

北斎「ええ日本美人てこういう人の事を言うんだろうなって」

なごみ「まあ、お上手」

おばさん「食器下げましょうね」

北斎「あ、はい。」

そういわれて北斎はあいた茶碗をおばさんに渡そうとした……。

なごみ「!!」

瞬間、なごみが北斎の両腕を掴かんで壁に押さえつけた。

北斎「……え?」

何が何かわからないままなごみを見ると、目を見開き笑顔なのか怒り顔なのか、わからない、とにかく恐ろしい顔でなごみがいった。

なごみ「ごはんつぶを残すと目が潰れます!」

北斎「……」

視線だけで茶碗に目を向けると確かに一粒お米が残っている。

おじさん「……」
おばさん「……」

おじさんとおぱさんは、またかという困ったような顔をしていた。

なごみ「危ないところでしたね♪」

妙な空気の中、フッと普通の笑顔に戻り米粒を北斎の口にそっと押し込むなごみだった。
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