ー日常ー街の住人達【5】

ーロンドン住宅街ー

チコ「さっき父親が嘘を教えたといっていましたが」

弁護士「母上は物静かで貞淑な女性だった。男を作ってなどときとんでもない。」

ミハイル「では、どうして?」

弁護士「母上が家を飛び出したのは、父上の暴力に耐えきれなくなったからです。」

「「!!」」

ゴッシュマン号「!!?」

弁護士「偉大な芸術家に、どんな心の闇があったのか知りませんがそれはひどい目に合わされたそうです。」

「「「……」」」

弁護士「しかし社会的には父上のほうが信用がある。妻の不倫というでっち上げの理由で離婚を成立させ、おまけに2度と子供に子供にあってはならないという裁判所の命令まで取り付けてしまった。」

チコ「ひどい…」

弁護士「命令はともかく、幼い君を残し逃げ出してしまったという負い目から、母上は死ぬまで君の前に姿を現すことはなかったが、本当は君のことが心配で愛おしくて、学校に通う君を、この窓からずっと見守っていたのだ。」

ゴッシュマン号「……」

ミハイル「ゴッシュマン号」

ゴッシュマン号「ウソだ!ウソだウソだウソだウソだ!ウソだーーー!」

心の底からの叫びをあげてゴッシュマン号は窓を拳で殴った。飛び散るガラス……。

ミハイル「いや、本当だ」

砕け散ったガラスの中に、涙を流す女性の造形ガラスが出来上がっていた。

チコ「涙のあとさえガラスの記憶に残るほど長い間、お母さんはゴッシュマン号さんを見守ってくれていたんですね。」

ゴッシュマン号「うっうっ……うわあぁぁぁぁ!!」



それから、ゴッシュマン号からは以前のようなどこか高慢な態度はすっかりなくなりました。

Lムーン1「結局お母さんへの恨みとかお母さんに捨てられた悲しみとかが心のどこかにあって」

Lムーン2「それが彼の斜にかまえたたいどになってたんだな。」

チコ「はい、それはよかったんですが……」

ミハイル「もう一度だ!」

ゴッシュマン号は木槌をガラスの板に振り下ろした。ガチャーンッと破壊音。「バラバラ」に砕け散るガラス。

ゴッシュマン号「だめです」

ミハイル「もやもやと一緒に波動(バイブレーション)まで消えたじゃないかーー!」

チコ「微妙な心のバランスが崩れたんでしょうね。」

Lムーン1「きっと二度と元には戻りませんよ。」

ミハイル「オーイオイオーーーイ!」

お母さんへの誤解が解けて幸せなゴッシュマン号、彼の人当たりがよくなって満足なムーンたち、約一名だけさらに儲けることができなくなって不幸なのでした。
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