ー日常ー街の住人達【5】

ー白金:レストランー

会合が終わり、絵里は様子を見に来た北斎に今日のことを話した。

絵里「どうしたらいいかな……」

北斎「……」

壁に飾られた大きなキルトは確かに手が込んでいて価値は高そうだ。

絵里「的場さんはこれまで商店街のために色々やってくれたから力になりたいけど、みんなからお金を預かるなら万が一にも間違いがないようにしたい……」

絵里は毛先を指で弄りながら迷いを漏らす。

北斎「このキルト写真撮らせてもらっていいかな?」

絵里「はぁ、どうぞ?」


~~


携帯で撮った写真を添付してメッセージと共にある人物へと送信したところ、返事はすぐに電話でかかってきた。

北斎「もしもし、お疲れ様です。わざわざ電話で連絡いただけるとは」

柏『ちょうど手が空いてたからな。今送られてきた写真のキルト』

北斎「偽物ですよね?」

柏『本物だよ。』

北斎「えっ?!」

柏『パッと見ただけだが値打ちもんだ。』

北斎「そう、ですか…」

柏『なんのアレかは知らんがもう鵜少し詳しく調べといてやる。切るぞ』

北斎「あ、ありがとうございます。」


~~


ー白金ホテル:プラチナー

絵里「どうでした?」

北斎「キルトは本物みたいだよ。かなりの値打ちものだろうって」

絵里「本物……」

北斎「……」

自分でいっておきながらやはり納得がいかない北斎と対照的に絵里はホッとした顔をしていた。

そして、また一日が終わり夜のとばりが降りる頃、北斎は机に突っ伏していた。

北斎「んーーー……」

七津川「……」

北斎「偽物だと楽だったんだけどなぁ。」

七津川「楽?」

北斎「彼の不誠実さを証明できると思ったんです。もう確信してますよ。最初に高い値を掲示してすぐ下げる手口。間違いなくまともな企業じゃないです。商店街のひと達に納得してもらえるような決め手が欲しかっんですよ。」

投げだしているスマホの画面には例のキルトが映っていた。

七津川はなんとなくのぞき込んでいった。

七津川「綺麗ですね。このキルト」

北斎「アメリカンパッチワークキルトが流行したのは大恐慌時代の1930年、メーカーが家庭で使う飼料袋フィールドサックをプリント柄にしたところこれが大ヒット。深刻な不況の中で主婦たちは倹約のためフィールドサックを再利用して子供服やエプロンを作ったわけです。」

七津川「そう?倹約のためだけじゃないと思いますよ?」

北斎「はい?」

七津川「このキルトとても明るくて華やかだもの。苦しい生活の中で少しでも、希望を見出そうと一生懸命な思いが伝わってくる。」

北斎「想い…ですか?」

七津川「ええ、お金に返れない値打ちを感じます。」

北斎「値打ち……あっ!!」
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