ー日常ー街の住人達【5】

ー世田谷区:一戸建て住宅ー

奥様「はいっ!」

奥へ行ったかと思うと、すぐに戻って来て何かを渡してきた。

正方形型に膨らんだ茶封筒だ。

マリア「はいって」

反射的に受け取るとズシッとした重みがある。

奥様「明日塾へ行ったらコッソリ鬼瓦先生に渡すのよ。そして事情を説明してその娘をいじめてもらってちょうだい」

マリア「えええっ!?」

奥様「子供がいじめられるのがどんな気分か思い知らせてやるわ!」

マリア「それなら奥さまがご自分でいって先生にお願いすればいいじゃありませんか!」

奥様「あたしが出てったら話に角が立つでしょーが!!」

マリア「誰がどうしたって丸く収まる話じゃありませんよ!」

奥様「家政婦なら主人の命令に従いなさい!!」

結局押し切られてしまった翌日……。

マリア「困ったなぁ」

どうしたものかと考えあぐねてマリアはひな子の様子を探るために木の上に登り教室の中を覗いていた。

~~

ひな子「……」

うつむきがちに立たされているひな子。

鈴木先生「どうしたの!答えられないの!?」

ひな子「……」

ざわざわと他の生徒たちも困惑した顔色を浮かべている。

ひとりの子が手をあげていった。

「あのー先生、そこまだやってません」

鈴木先生「予習していればわかるはずです!授業が終わるまで立ってなさい!」

教科書を教卓に叩きつけてそう言い放った。

ひな子「…………」

言われた通り立てったままのひな子。周りの生徒たちはひそひそと話した。

「ひそひそ(予習たってねぇ)」

「ひそひそ(50ページも先じゃん)」


~~

いじめというのは誤解で教育熱心がいきすぎてるだけかもしれないと思ってたけど完全にいじめだとマリアはため息をついた。

登っていた木の上から降りて、さあどうしよう。どうやって鬼瓦とか言う先生を説得したらいいのかと考えていた。

ふと、渡された封筒の中身はいくらぐらいなのかと気になって封をきってそっと出してみた。

顔をのぞかせたのは諭吉さんの束!つまりは……現金!!

おっことしそうになるのを理性でガードして、無意識に札の数を数え始める。

銀行員も真っ青な札の数えスピードでぴったり100枚。

マリア「ということは……100万円!!いくら子供のためとはいえ百万円もポンッと出すなんてこの不景気の時代にあるところはあるもんだ。しかし百万円あったら助かるなぁ。最近実入りが少なくて借金の返済が遅れがちだからなぁ。いかん!私はなんて馬鹿なことを……でもないか」

コロッと態度が変わる。

要するに、すずピーの娘さんがいじめられればいいわけで誰がやってもいいんだ。ということは、わたしがいじめれば百万円は私のもの。

よし、理論武装完了と斜め横すぎる歪んだ解釈をしたマリアはひっひっと悪い笑い方をしながら何処かへ向かった。
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