ー日常ー街の住人達【5】

ーアラファト家政婦協会ー

おマリもこのところ仕事にあぶれていて借金の返済もままならないのでした。なので、多少気味悪かろうが、めんどうなところだろうが出向かうのです。

マリア「いくらかでも、稼がないと。その前に、お熊さん。いいですか?」

お熊「あら、なあに?」

優秀で行動力があって妙なことをよく知っているアラファト家政婦協会のなかでもベスト5の実力を持つベテラン家政婦(男だが)お熊さん。

ただ、最近新しい彼氏と別れたらしくやややつれ気味なのだが、もともとがゴツイのでやつれたというより減量して絞っている重量級ボクサーのような顔つきになっている。

マリア「……」

お熊「どうかして?」

マリア「お熊さんあいかわらずお美しい」

お熊「ありがと、でもほんとうのことをいってもお世辞にならないわよ」

マリア「この根拠のない自信はどこからくるんだろう」

お熊「なにかいった?」

マリア「これなんですが」

お熊さんの前に出したのは先ほど預かった昔のお金のようなもの。

お熊「安政二分金じゃないのこんなものどうしたの」

マリア「おおさすが、どうやったら現在のお金にかえられるでしょう」

お熊「専門店に持っていけばいいのよ。けっこう状態がいいから二万五.六千円で売ってるとして……八千円なら引き取ってくれるんじゃないかしら」

マリア「ほんとに無駄なことを……いやひーその、色んなことをご存知でいらっしゃるおかげで助かります。」

お熊「知恵ならいつでも貸すわよ。おほほほっ。」

おマリはさっそくお熊さんに教えてもらった専門店に行き、換金したお金で買い物を済ませ、地図を頼りに仕事先へやって来ました。 

例の家政婦さんがいっていたとおり妙な場所だったが神経が図太いマリアは平然と進んでいき、民家のドアを開けていった。

マリア「ごめんくださーい。といってもごめんをくださいといってるわけじゃありません。挨拶ですよ、ごめんくださーい。」

『…………』

わずかに、ほんのわずかに生き物の気配はするが返答なくシーンッと静まり返っている。

高度なつかみのギャグにも無反応か、この住人はいったい……などと考え、ふと視線を落すと玄関先に折りたたまれた紙と例の古銭が置かれていた。

紙を開いてみるとまたも筆文字で【でんでんだいこ】【かざぐるま】と書かれていた。

マリア「新しいお買い物ですね。さっそくいってきますね。先に頼まれました砂糖とミネラルウォーター。それにさらし木綿はここに置いておきますね。失礼します。」
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