ー日常ー街の住人達【5】

ー都心:古若寮ー

今回おマリがやってきたのは都心に建つ古若(ふるわか)工業社宅。「古若寮(こじゃくりょう)」

マリア「マンション全体が社宅になっているのね。この不景気な世の中に威勢のいい会社だわ。えーと、6階12号室の伊武ヶ崎(いぶがさき)さん。」

目的の部屋を見つけてチャイムを鳴らす。
ピンポーン♪

一拍おいてインターフォンから返答が来る。

『はい、どちら様』

マリア「消防署の方から来ました」

『消火器なら間に合ってます。』

マリア「ちゃいまんがな」

『まんがな?』

マリア「消防署の方から歩いてきたアラファト家政婦派出協会の家政婦です。」

そういうと、ドアが開いて若者がひとり出てくる。

若者「厄介なときに厄介な自己紹介はやめて欲しいな。」

マリア「こんにちは」

一礼するマリアを見て驚いたのか若者はいった。

若者「君は家政婦?」

マリア「10代の子供に見えますがほんとは18歳、これがニセの身分証明書。」

ちゃんと18歳になっているニセモノの身分証明書を差し出した。

若者「えっ?」

さっと懐にしまい込んでいった。

マリア「細かいことは気にしないようにおマリといいます。」

若者「はぁ……どうぞ。」

釈然としない様子だが中へとあげてもらう。

マリア「失礼します。」

若者「一週間の予定でお願いしたんですが…妻が心労で倒れてしまって。」

マリア「いけませんねぇ。旦那さん、お若く見えるが実は年季の入ったギャンブル好きで大酒のみ、おまけに女遊びが激しくて愛人に子供ができたのが発覚して奥さんが心労で……倒れたと、こう抜かすのかええおい、人間の屑が。」

若者「誰が人間の屑だ、誰が。勝手に話を作るな」

驚いて目をぱちくりさせてマリアはいった。

マリア「違うんですか?」

若者はめんどくさそうに首をふって、静かに一室のドアを少しだけ開けた。

女性「ふぅ…」

中を覗くと熱ぼったそうで少しやつれ気味の女性が布団で眠っている。

マリア「お若いですね。旦那さんもそうですが社会人というより大学生みたいですね。」

若者「二人とも今年卒業したばかりだから」

マリア「ということは……学生結婚?」

若者「そう。入社一年目で社宅に入れたのはラッキーだったけれど、でもそのおかげで……」

フゥッと大きなため息をひとつ吐いて、ポツリポツリと話し始めた。
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