ー日常ー街の住人達【5】

ー池袋:骨董屋ー

その現金をもっておマリがやってきたのは顔なじみの骨董屋です。

マリア「ごめんください。ごめんくださいですよ。お面くださいじゃありませんよ。」

若店主「来るたびに同じギャグをいわないように」

マリア「というと、私を覚えてらっしゃる」

若店主「あたりまえですよ。お得意のお熊さんとよく一緒においでになるじゃありませんか」

マリア「そういえばこないだもお熊さん五百万円の青磁(せいじ)の皿を買いましたね。」

若店主「うちの一番の収入源はお熊さんですからね。」

マリア「まぁ、それはおいといて、三万円でガラクタを50個ほどください。」

若店主「おかしな買い物の仕方ですね。」

マリア「で、残る三万円で高い品物を貸していただきたいのです。」

若店主「ますますおかしいなぁ」

マリア「一日で返します。貸すだけで三万円もうかるんですよ」

若店主「まあお熊さんのお友達だから、これなんかどうです?三百万円の古伊万里の茶碗」

マリア「けっこうです。借りてきます。」

若店主「あつかいに気をつけてくださいね。」

次におマリがやったことは着物を汚し、段ボールで家を作って、えものを待つ。

身なりの良い男「……」

マリア「ズゾゾゾ」

男は横目で麺を啜っているマリアを見たかと思うと、飛び込むように物陰に隠れた。

そして改めてその手に持つ茶碗を注視する。

身なりの良い男「間違いない古伊万里だ。なぜあんなところにあんな良い品が……!ラーメンなんか食べてるところを見ると値打ちを知らないんだな。よーし」

マリア「ズゾゾゾ」

身なりの良い男「ああ、君、君」

マリア「は?」

身なりの良い男「見れば子供のようだが家はないのかね」

マリア「長引く不況で家族はバラバラ。子供なので働くところもなくて」

身なりの良い男「不憫な……これ少ないが」

折りたたんだお札を受け取るマリア。

マリア「あっ、すみません」

身なりの良い男「ところでそういう境遇の割に焼き物集めとは優雅な趣味だね。」

男は周りに置いてあるガラクタをひと通り眺めていった。
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