ー日常ー街の住人達【4】

ー白金台:豪邸ー

マリアは手を振り上げた。かすみはぎゅっと目を閉じたが……。

マリア「失礼しました。思わず叩いてしまうところでした。家政婦としてあるまじき振る舞いでした。」

かすみ「……」

マリア「ですが言うべきことはいわせていただきます。どんな事情があるか知りませんが、おなかの赤ちゃんにどんな恨みがあるのか知りませんが……赤ちゃんの命は神様から預かったものです!それをどうこうする権利は母親のあなたにもないはずです!!」

かすみ「ワアァッ、ちがうのよ!赤ちゃんが憎いんじゃないのよあたしが悪いの全部あたしの責任なの!」

マリア「理由(わけ)がありそうですね。よければ話してください。秘密は守りますし、できる限りお力にもなります。」

かすみ「実は……」

派遣先の家人から色々な相談を持ち掛けられることも多いアラファトのスタッフは心理カウンセラーとしての訓練も受けています。

その能力をフルに発揮して聞きだした事実は意外なものでした。

マリア「えっ、整形!?ということはかすみ様は整形美人!?」

マリアは改めてかすみの顔を凝視する。二重まぶたに整った鼻、すらっととがった顎、上品な程度に膨らんだ唇。全体的に整ってはいるが不自然な手が入っているようには見えない。

かすみ「あたしは不細工な女の子だったの。自分に自信が持てなくていつもひとりぼっち、このままじゃいけないなんとか人生を変えなくちゃいけないと思って整形して別の顔を手に入れたの。そうしたらそれまで見向きもしなかった男性たちが急にチヤホヤするようになって、そのうち知り合った主人と」

マリア「結婚された。整形の事は内緒のまま」

かすみ「生まれてくる子供は元のあたしに似て不細工だわ。そしたらイヤでもバレてしまう。まっすぐでウソをつくことの大嫌いな主人はきっと許してくれない。離婚されてしまうわ。それだけじゃない不細工な子供はあたしみたいにくらい人生を送ることになるわ!それならいっそ!いっそ今のうちに!」

マリア「喝!今のうちにどうしようというんです!重ねて言いますが赤ちゃんは貴女の所有物じゃない。馬鹿なことは考えないでください。もちろん義姉様もご存じないわけですよねえ。しかしなにか方策はあるはずです。二人で知恵を出して考えてみましょう。」

かすみ「考えたわ。赤ちゃんを整形できないかしら、そうしたらバレずに済むわ」

マリア「あのですね。ご自分がものすごーくネガティブになってるのを自覚してませんね。とにかくお話をうかがった以上、私も乗り掛かった舟です。うちのスタッフには知恵者がそろってますから相談して必ずいい解決策を見つけ出します。それまでくれぐれも早まった行動はとらないようにしてください!」

かすみ「……」
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