ー日常ー街の住人達【4】

ー文京区音羽ー

倹約の話を聞いて、おマリこと夢前マリアも倹約を心がけないとと思いつつ今日の現場へと向かった。

マリア「ええと、鮫島さま宅というと……ここかぁ、大きな家だわ。すみませーん」

「勝手口で謝っとるのは誰じゃ」

マリア「いいなあ。定番のギャグ」

声がしてからやや遅れて立派な髭を蓄えた老人がゆっくりと現れる。

老人「誰じゃ」

マリア「家政婦のものです。ずいぶんゆっくり歩くんですね。」

老人「急いで歩くと廊下が減る。とりあえず中に入りなさい。」

マリア「お邪魔します。」

老人のあとをついていき、真っ暗な部屋に入るや否や……。

老人「雨戸を開けてくれ。」

マリア「いつも雨戸をしめきっておいでで?」

老人「ふだんしな、風が通り抜けると摩擦で家が減るから」

マリア「はあ」

老人「しかし真っ暗な中で話もできんから、明かり取りにあけたのじゃ。電灯をつけるより安上がりじゃ」

マリア「なるほど」

鮫島「というわけでわしが主の鮫島鮫衛門じゃ」

マリア「というわけでおマリと申します」

鮫島「家政婦の第一の仕事は庭の手入れじゃ」

マリア「庭師をお使いにならないんですか?」

鮫島「専門職は日当が高い」

マリア「はあ」

鮫島「後は洗濯掃除食事の用意と決まりきったことじゃが、決まりきっとらんのは我が家には電気製品がない。電気料金など無駄の最たるものじゃ。」

マリア「はぁ……(こればっかり)」

鮫島「掃除は箒と塵取り、洗濯はたらいと洗濯板これで充分役に立つ」

マリア「冷蔵庫もないんですか?」

鮫島「江戸時代に冷蔵庫があったか?」

マリア「たぶんなかったと思います。」

鮫島「なくっても昔の人はちゃんと暮らしておった。その日食す物はその日に買えばよいのだ。これが合理的精神というものだ。ちなみに食事の内容であるが……」

マリア「だいたい想像はつきます」

鮫島「そうか」

マリア「梅干しを買って一色に一個ずつ召しあがるのでは」

鮫島「そんな贅沢な」

マリア「なんと…」

鮫島「梅干しの場合、朝は皮、昼は実、夜は種を割って中の天神さんを食す。これで一日一個で済む。」

マリア「うわぉ……」

鮫島「ところがそういう食生活を続けておったら身体の調子が悪くなった。」

マリア「でしょうね。あきらかに栄養不足ですから。」

鮫島「そこで近頃は食事に金をかけておる。」

マリア「そうですか。」
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