ー日常ー街の住人達

ー小型クルーザー:甲板ー

拳二「はぁぁ(次から次へと問題が……気が休まる時がねえよ……なんだコレ、釣りってこんな緊迫してたっけ……待ってる間ってもっと……)」

上組員「魚来てるぞ」

拳二「いや……それどころじゃないんだよ…」

上組員「何しに来たんだよ?!」

拳二「あん?」

上組員「だから魚来てるんだって!」

拳二「え、あぁ……」

自分の竿が動いていることにようやく気がついて軽くリールを回す。釣り上がった魚から針を取り、アイスボックスに投げ込んだ。

その姿はまるでさっきの愛と同じだった。

上組員「投げやりだな!」

辰樹「おい、ちょっといいか」

組員「はい、なんすか」

拳二「ハッ」

上組員「おい、また来てるぞ」

辰樹「キャビンに置いてある釣り雑誌取ってきてくれ」

組員「ういっす」

拳二「ちょっと待て!」

上組員「魚来てるのに竿ほっていくお前がちょっと待てぇぇ!」

組員「ど、どしたんすか」

拳二「それは俺ぁがやる」

組員「え?す…すげえ少しでも点数稼ごうと?」

上組員「貪欲なヤツだ」


ーキャビン(半水没)ー

拳二「危ねえ…雑誌は……本日最大の難問きたーー!!」

大声を出した拳二の目に映るのは水面に浮かぶずぶぬれた雑誌だった。

どうする、ちょ…これ……どーするってかどうしようもねえよ!落ち着け瓦谷拳二……やるしかねえ……一世一代の演技みせてやれ!!



ー小型クルーザー:甲板ー

辰樹「ん?」

拳二「親父!!お待たせしまし……」

拳二はその巨体で早足に駆けた。そして、わざとらしくないよう、まるでそれが目に入ってないようにアイスボックスに蹴躓いて勢いよく雑誌を海の方へと投げ飛ばした。

辰樹「えぇ……」

拳二「本当にすいませんでした!!本当に!」

拳二は土下座しながら何をやっているんだろう……っと、ちょっと悲しくなった。

辰樹「いいよぉ雑誌くらい」

組員「まったくアニキは功を焦り過ぎなんスよ。雑誌で知りたかったこと俺なら答えられますよ」

辰樹「そうか?拳二、マナちゃん船酔いきつそうだからお前面倒見てやれよ」

拳二「はい」

上組員「諸行無常やで」

その後、運がよいのか悪いのか入れ食い状態となり誰も彼もがキャビンで休憩することなく時間は過ぎていった。

辰樹「はっはっは、大漁だな」

拳二「そろそろ帰りましょう」

上組員「そうだな」

組員「それじゃあ記念写真取りましょう。いきますよー。はいチーズ」

ぐったりとした愛を中心に辰樹、拳二、上組員が釣り上げた魚を持ったそれはもうヤクザの釣りという感じの一枚だった。

拳二「それじゃ、帰りまーす」

あとは陸につくだけ、ようやく解放されると思いながら拳二は鍵をまわした……っが、しかし……。エンジンがかからない。それ以前に全ての計器が反応していない。

愛「……」

拳二「お疲れのところ申し訳ないがこの船を港まで運んでくれないか?」

愛「う……うぅ……私、頑張るから……」

拳二「なんて健気な発言!!」
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