ー日常ー街の住人達

ー小型クルーザーー

拳二「あー、クソ。釣れやしねー」

組員「あれ、アニキ。どこ行くんスか?」

拳二「ちょっと休憩行って来るわ」

愛「あ、私もトイレ」

休憩室のドアを開けると、何ということでしょう。アメリカ映画であるような見事な浸水。備え付けのソファーが浸水しきるかどうかくらい海水が溜まっていた。

拳二はゆっくりと扉を閉めた。

愛「ねぇ、瓦谷。これもしかしたら私が……」

愛が何かを言いかけたが拳二の耳には届いていなかった。ケンカ上等、怖いもの無し、巨拳、ダブルクラッシャー、破壊神と呼ばれている男が頭を抱えて震えているのだ。

拳二「ヤバいヤバいヤバいヤバい。俺ぁが誘った釣りで沈没なんて事になったら、あぁああどうやって責任取りゃ…小指どころか腕一本?ヤクザ人生終わり?あああぁぁあああぁぁ!!」

愛「……か、瓦谷。私に任せて!」

拳二「ホント?ホントにホント?」

愛はいいだせなかった。決して頭がよくない愛でも今は自分のせいだといってはいけないと感じ取ったのだ。

愛「むんっ……!」

念動力パワーでクルーザーを浮上させ、海水が浸入しないよう空気の壁を作ることをやってのけた。

拳二「ふーとりあえずの危機は去った……けどアレだ。この中を見られるわけにはいかねえ」

愛「うん」

見られたら一貫の終わり……終わり……

拳二「ごくっ……いいか、愛。ふたりでここを死守するぞ」

愛「わかった。」

そこそこ長い付き合いになって来たふたりが初めて手を握り合って協力し合おうと誓った瞬間だった。

組員「アニキ」

拳二「うわぁぁああ!!」

ギュウゥ!
愛「いたたたたたっ?!」

組員「ど……どうしたんすか?」

拳二「ど…どうもしねぇよ何!?」

組員「いや、俺も休憩しようかと」

拳二「……」

ガシッ!
組員「え?」

拳二「休憩したら殺すぞ」

組員「なんてビックリなトンデモ理論!?」

上組員「なんだ騒がしいな」

組員「アニキが訳わかんないこというんですよー」

上組員「うるせーな俺は小便しにきたんだよ」

拳二「ちょ……ちょっと待て。ここでしろ」

上組員「なんでだよ?!海だからってそこまで解放できるか!!」

拳二「ぐ……さ、さっき俺ぁがした巨大なクソがつまっちゃって逆流して中、大変なことになっちまったんだよ!!」

上組員「マジかよ…」

組員「アニキ…」

その後……

辰樹「うーむ、後ろの方が釣れるかな」

拳二「いやー絶対前の方で釣った方がイケますよ!」

組員「ちょっと休憩に…」

拳二「だからお前は休憩してる場合じゃねーって!魚逃げちゃう!」

上組員「咽乾いたな」

拳二「俺ぁが取ってくる!!」

釣りどころではない。生まれて初めてではないだろうか、瓦谷拳二という男が誰かのために無償でここまで気を使うのは……。まぁ、保身のためではあるが……。

愛「瓦谷……」

拳二「心配かけちまってるな。気にすんな、かっかっか……」

愛「私すごく気持ち悪い」

拳二「マジで!?」

愛「うぷっ……えろえろえろー」

拳二「ここにきて船酔い!!頑張ってくれー!!帰ったら海の幸くわせてやっから!」

愛「う……海の幸…」

拳二「そうだ!ウニもあるぞー!」

その時、愛の食欲と吐き気を堪える力みが変に作用し……船の中で何かが小さく爆ぜた。

愛「……あ…」

拳二「大丈夫か?」

愛「う……うん大丈夫」

拳二「めっちゃ顔色悪くなってるけど。そんなんで船浮かし続けられるのか?」

愛「うんまぁ意識してればいいから」

拳二「そ、そうかぁ。じゃあ引き続き頼むぜ」
23/100ページ
スキ