ー日常ー街の住人達

ー小型クルーザーー

愛「むっ……」

難しい顔をして釣りざおを構える少女がいた。


組員A「アニキ、マナちゃん釣り出来んすか?」

拳二「さあ知らね。」

辰樹「いいじゃないですか。始球式ならぬ始投式ってことで」

愛「……はっ!」

勢いをつけ振りかぶると握りが甘かったのだろう手からすっぽ抜けて竿が飛んでいく。

拳二「だぁぁあー!!どーすんだよこれ……」

組員A「アニキ、あっしにおまかせあれ」

釣りに慣れてるのか手首のスナップだけで糸を飛ばし器用に竿に引っ掛けて吊り上げた。

愛「おー、とったどー」

組員A「最初の獲物は釣りざおだぁー!」

辰樹「拳二、今日はありがとな」

拳二「親父、釣り好きですから退院祝いも兼ねまして」

上組員「いいか、点数はああやって稼ぐんだぞ」

組員A「ういっす」

拳二「おい」

愛「むっ…!」

リールを勢い良く巻きあげ今度はちゃんと魚を吊り上げたのは愛だった。小ぶりだが生きのよいアジ。

拳二「おおー釣れたじゃん」

愛「……」

しかし、愛は不満げに魚から針をとるとぽいっとクーラーボックスに投げ入れた。

拳二「投げやりだな!」

愛「親父エサつけて」

辰樹「はいはい愛ちゃんちょっと待っててくださいね。」

拳二「完全に孫を見る目だ……」

組員A「で、トップウォーターっていう種類のルアーを使うと」

上組員「おめーの釣りウンチクはいいんだよ」

愛「むっ…!」

ザパッと愛はまた魚を吊り上げる。

拳二「おおーまたか。おめー釣りの才能あるんじゃねーの?」

愛「……」

しかし、さっきより乱暴にクーラーボックスにな投げ込んだ。

拳二「またかよ!なんだよ。釣れてんのになに不機嫌になってんだ?」

辰樹「愛ちゃん、もしかして何か釣りたいのがあるのかい?」

愛「集中してるから黙ってて」

辰樹「……!」

拳二「うぉい!」

辰樹「はっ、はは、ちょっとトイレ行ってきます。」

ふらふらとした足取りの親父。あの親父が動揺している……。その間にも予想外というか愛はドンドン魚をつり上げていく。しかし、そのたびにアイスボックスに魚を捨てるように叩きこんだ。

拳二「なんなんだよ!!」

愛「……」

そしてまた釣り上げた。しかし、よほど気に入らなかったのか手に持つ魚を組員に投げつけた。

組員A「痛生臭い!?」

拳二「おい!いい加減にしろ!一体何を釣ろうってんだ!!」

愛「……何で……何でウニが釣れないの?」

拳二「とんでもないもの釣ろうとしてた!!はぁ…そんなもん釣れるわけねぇだろ」

愛「!?」

ガクッと四つん這いになる愛。

拳二「ウニは魚じゃねーんだ。釣ることはできません」

愛「っ……!」

愛は悔しげに固めた小さな拳で甲板を叩いた。表面上は問題なかったが力の制御を忘れていて船底にボゴッと穴を開けた。

その衝撃で船が揺れる。

上組員「おっと、波か?」

誰も気がつかないまま水が浸入し始める。

愛「……あ」

拳二「どしたショック過ぎた?」

愛「んーん、なんでもない」
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