ー日常ー街の住人達【2】

ー池袋:摩天楼ー

詠子「社長、今日が何の日かしっていますか?」

凍夜「えっ……突然だね。」

詠子「何の日か知っていますか?」

凍夜「んーと、白嶺ちゃんの誕生日じゃないよね?」

詠子「違います」

凍夜「バレンタインは2月14日だし……あ、バレンタインってチョコとかくれるの?」

詠子「欲しいですか?」

凍夜「男の子はいくつになっても女性からの……」

詠子「いらないんですね。」

凍夜「欲しいです。」

詠子「では、ご用意ます」

凍夜「本命?」

詠子「義理……いえ、上司へのごく一般的な贈り物でしょうか」

凍夜「ははっ…そういう白嶺ちゃんの淡々としてクールなところ嫌いじゃないよ」

詠子「私もちゃんと仕事しているときの社長は人並に好きですよ」

凍夜「若干ひっかかるんだけど…」

詠子「そんなことより、今日がなんの日かの話しです」

凍夜「肉の日の一日前……っていうのでもないだろうし、降参。わかんないや。」

詠子「針供養日です」

凍夜「……は?」

詠子「針供養です」

凍夜「ごめん、なにそれ。」

詠子「2月8日、または12月8日に行われる。関東地方や東北地方の一部では両方という地域もで、ほとんどはどちらか一方の日に行われる。祭事です。関東地方では2月8日、関西地方や九州地方では12月8日が一般的ですが、大阪天満宮では2月8日、加太の淡嶋神社針祭でも2月8日、嵯峨の法輪寺では12月8日と2月8日の双方に行われるなど、必ずしも地域によって日時が固定されているというわけではありません。」

凍夜「は、はぁ…」

詠子「かつて、12月8日と2月8日は事八日と呼ばれていた。12月8日を事納め、2月8日を事始めとよび、事納めには農耕を終え事始めには始めるとされていました。この両日はつつしみをもって過ごす日とされ、この日は針仕事を休むべきと考えられていたんです。そして使えなくなった針を神社に納める、あるいは豆腐や蒟蒻のように柔らかいものに刺したりすることで供養し、裁縫の上達を祈りました。また、かつては土の中に埋めたり、針を刺した豆腐や蒟蒻を川や海に流して供養するという型式で執り行われる地域もあったそうです」

凍夜「な、なるほど…」

詠子「針に触れないようにするという風習が残る富山県や石川県では針歳暮とも呼ばれています。饅頭や大福を食べたり知人に贈ったりすることが行われているそうです。

凍夜「……」

詠子「現在では家庭で針仕事を行うことが少なくなり、家事作業における感謝や祈願の意で行われることは少なくなっていますが、服飾に関わる分野においては未だ根付いていて、和裁や洋裁の教育機関や企業では現在も行われているんです」

凍夜「アッハイ。ありがとうございました」

詠子「それで実は我が家でも針供養をするんですけど」

凍夜「へー、信仰深いんだね。」

詠子「そういうわけでもないんですけどね……。それでここでもう一ついいですか?」

凍夜「あ、うん。なにかな?」

白嶺「社長……お腹すいていませんか?」

凍夜「ん?まぁ……すいてるけど」

詠子「ならちょうどよかったです」

凍夜「え?お菓子でも作ってくれたの?」

詠子「いえ、針供養の豆腐がもったいないなと……」

凍夜「これ……わざわざお家からもってきたの?」

詠子「はい。お醤油も持参しました。」

凍夜「詠ちゃんてさ、たまーーにものっごくアクティブだよね。」

詠子「恐縮です」

凍夜「とりあえず、この豆腐は遠慮しておくよ」

詠子「そうですか」

凍夜「お昼だし、なにか食べに行こうか」

詠子「ご馳走になります」

凍夜「うん……。あのさ、一応聞いておくけど、これってボケだよね?天然でやってるとか俺のことが嫌いとかじゃないよね。」

詠子「もちろん、静かなオフィスにユーモアをと考えたネタですよ。今回は」

凍夜「そっか。安心した…………今回は?」

詠子「さ、行きましょう。私何故かラーメンが食べたいのでラーメンにしましょう」

凍夜「あ、うん…。」
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