ー奇談ー學校へ行こう10

ー教室ー

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業が始まろうとしていた。

悠「後から聞いて引くのもアレだし、こういう事はちゃんと聞いといた方がお互いのためだから、失礼を承知でストレートに聞くが……人間食う?」

亘理『ホントにストレート』

スキュラ「まぁ、ごもっともな質問ですね。端的に言いますと……食べます。」

摩耶「わぉ」

スキュラ「ただ、正確には食べて「いた」ですね。私の母の代にはもう人間を食べることはなくなっていました。祖母の代ではまだ食べていたそうですけど。」

悠「三代前か……」

【ファリードゥーン】

千世子「こほん、はい、じゅぎょーしますなのだ。日本で紫式部の「源氏物語』が出来上がって間もない1010年、現在「イラン」と呼ばれている中東の国「ペルシア」で「王書(シャー・ナーメ)」という物語集がかかれたのだ。ファリードゥーンは、この王書に登場する架空の英雄なのだ。」

悠「三代まえって何年くらい前?」

スキュラ「授業が始まりましたよ。私語は慎みのましょう」

悠「やだ、超真面目……」

摩耶「眼鏡さんがきらりと光ったね」

亘理『委員長タイプだ』

千世子「悪鬼を退治した英雄「タフむーらす」を先祖に持つファリードゥーンは、生まれながらに幸運と徳を備えた美しい子であったのだ。山に住み、牝牛の乳で育ったファリードゥーンは、非常に背が高く力の強い青年になるのだ。」

神姫「真面目なのもいいけど、交流を目的とするなら、会話も大事じゃない?」

スキュラ「……」

神姫「ま、授業中に私語厳禁という意味では、あなたは間違ってないけどね」

スキュラ「……わかりました。ある程度までは必要な会話としましょう」

悠「おー、意外と寛大だ。黒タイツで眼鏡だからもっとキツイかと思ってた」

三つ首の犬『ガブッ!』

千世子「ファリードゥーンは、父親が、ペルシアの王「ざっはーく』に殺されたことを知ると復讐を誓う。ざっはーくは悪魔に騙されて両肩に蛇を生やしてしまった王で、肩の蛇に人間の脳を食べさせるために毎日人間を殺すという残忍な行為を行い、民衆に恐れられていたのだ。」

悠「……」
三つ首の犬『ガジガジ』

摩耶「気分は?」

悠「両腕とボディを噛まれてる……。わりと本気噛みで」

神姫「あの犬自体はコントロールしているの?」

スキュラ「いいえ、あの子たちの意思です。」

千世子「ファリードゥーンは、聖なる牝牛の頭に似せた鉄矛を鍛冶屋に作らせると、ザッハークの城に乗り込む。そしてザッハークを見事に打ち倒し、鎖で縛って山の中に幽閉したのだ。」

悠「毒とかないよな?」
三つ首の犬『ガジガジ』

スキュラ「その子たちにはないです。」

摩耶「他にはあるの?」

スキュラ「この部位です」
ズルルッ

亘理『わっ!タコ足!』

千世子「ザッハークは、現在のイラン北部である「ダマーヴゥンド山」に幽閉され、ファリードゥーンは新しい王として、500年もの間ペルシアを平和に統治したのだ。」

スキュラ「この触手の吸盤の中には刺があって、そこには毒があります。出血性の毒なので刺さると死にますよ」
ズルルッ

摩耶「そのタコ足は上半身なの?」

スキュラ「腕の一部という方が近いかもしれないです」

千世子「日本がまだ縄文時代だった紀元前15世紀ごろ、中東の国「イラン」で成立したという宗教「ゾロアスター教」。この宗教の物語は、ファリードゥーンの元になった英雄「スラエータオナ」が登場するのだ。」

悠「アンタ、完全な状態だとどんな形になるんだ?」

スキュラ「最初にあったときとほとんど変わりませんよ。魚の尾から腹部に三つ首の犬、そして私が上半身で腰のあたりから10本の触手です。」

摩耶「10ってことはタコじゃなくてイカ?」

スキュラ「いえ、スキュラの触手ですね。まぁ、タコでもイカでもいいですが」

神姫「まさにモンスターね」

スキュラ「すいませんが、モンスターではなく「モンスティア」と呼んでいただけませんか?」

雨「モンスティア?」

スキュラ「女子のモンスターのことです。」

悠「モン娘でよくね?」

千世子「スラエータオナも、ファリードゥーンと同じように怪物を倒した英雄なのだ。彼が倒したのは「アジ・ダハーカ」という悪竜なのだ。ただしスラエータオナはファリードゥーンにはない能力を持っていたのだ。彼は人々を癒すことができるのだ。スラエータオナの具体的な能力は、「かゆみ、熱病、むら気、感冒(呼吸器におけるウイルス性の炎症、失禁)」といった症状を、治す力と「蛇による邪悪な行為」から人々を救う力の二つだったのだ。以上、ファリードゥーンのじゅぎょーだったのだ。」
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