ー奇談ー學校へ行こう10

ー教室ー

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業が始まろうとしていた。

悠「メフィストのおっさんて見た?」

亘理『確か談話室で義鷹と話してたけど』

悠「そうか」

摩耶「なんか用事」

悠「大したことじゃない」

摩耶「ふぅん?」

【イリヤ・ムウロメツ】

千世子「はい、じゅぎょーしますなのだ。英雄物語の主人公は、若いころから偉業を成し遂げたり、たぐいまれな才能を発揮することが多いのだ。しかしロシアの英雄「イリヤ・ムウロメツ」が英雄としての一歩を歩み出すのは30歳。英雄の中でもかなり遅咲きなのだ。」

悠「それより、見てくれこの輝かしいホロロ一式装備」

亘理『早くない?!』

悠「頑張った!!」

摩耶「ひと言どうぞ」

神姫「阿保でしょ」

千世子「ロシアの農家に生まれたイリヤは、色白で美しい青年だったが、生まれつき手足が動かず、寝たきりの生活を送っていたのだ。しかし、30歳の時、不思議な3人の老人によって、イリヤの手足が動くようになったのだ。更にイリヤは、老人たちから超常的な力と不死の身体も授かったのだ。そして「太陽の君」と呼ばれた名作」「ウラジミール公」に仕え、怪物や異教徒と戦う英雄となったのだ。」

悠「本当にひと言でまとめられた」

神姫「分かりやすいでしょ」

悠「褒めてくれてもいいのよ」

摩耶「ゴイスーゴイスー」

悠「うへへへ」

千世子「英雄物語といえば財宝を手に入れたり、美しい姫と結婚する物語展開が定番だが、イリヤの物語にそういった要素は一切ないのだ。イリヤはあくまで、キリスト教とロシアを守るという理想のために戦ったのだ。」

雨「阿保でしょ」

神姫「阿保よ」

悠「しかし……今日は一段と寒い」

摩耶「だねぇ。」

悠「白巳を装備してきたらよかった」

千世子「イリヤの最期は実にあっけないものだったのだ。きっかけはイリヤと共に戦う仲間が、「俺達の強さには点の軍勢も叶わない」といううぬぼれた発言をしたことだったのだ。すると、今倒した敵軍の死者が起き上がり、襲い掛かってきたのだ。イリヤたちの傲慢に怒った紙が、彼らに資格を差し向けたのだ。神の怒りを悟ったイリヤは懺悔の祈りをささげたが、イリヤたちは全員石像に変わってしまったというのだ。キリスト教のために戦った英雄が神の怒りで滅ぶ結末は、皮肉としか言いようがないのだ。」

亘理『白巳ちゃん良いよね。モチモチしてて』

悠「食べる気か……」

亘理『食べないよ!!』

摩耶「美味しそうとは?」

亘理『まぁ、ちょっとは……』

神姫「あら、怖い」

亘理『冗談ですから!』

千世子「イリヤの物語は、ロシアに伝わる英雄物語集「ブィリーナ」に書かれているのだ。「ブィリーナ」と「実在にあったこと」という意味で、11から16世紀ごろにロシアの歴史を基に創生されたものと考えられているのだ。「ブィリーナ」は、南ロシアやシベリアなど僻地を中心に伝わり、モスクワのような都市部では物語自体がすぐに忘れ去られてしまったのだ。このため「ブィリーナ」は19世紀になってようやく本格的に研究されるようになったのだ。今ではロシアの国民的英雄となったイリヤだが、ロシア全土に名前が伝わったのは近年になってからなのだ。イリヤ本人ではなく、物語そのものも「遅咲き」だったのだ。以上、イリヤ・ムウロメツのじゅぎょーだったのだ。」
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