ー奇談ー學校へ行こう10

ー教室ー

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業が始まろうとしていた。

悠「さーむい。」

千世子「汗かいてるのだ」

悠「カイロ張ってるからな」

亘理『早くない?』

悠「転ばぬ先の杖」

神姫「転ばぬ先の杖が突き刺さってない?」

【クッレルヴォ】

千世子「はい、じゅぎょーしますなのだ。クッレルヴォは、フィンランドに伝わる叙事詩「カレワラ」に登場する人物のひとりなのだ。叙事詩のほかの部分とは独立した内容で描かれるクッレルヴォは、大きな力を持ちながら悲惨な境遇に生まれてきた、孤独な英雄だったのだ。」

摩耶「汗で濡れて余計に冷えそうだね。」

悠「……そこまで考えてなかった」

神姫「真っ先に考えることでしょう」

雨「阿保だわ」

悠「不思議とよく言われる。」

千世子「クッレルヴォは奴隷として生を受けたのだ。その父親カレルヴォは、父の兄弟ウンタモに一族とも殺され、身重の母だけがウンタモに連れ去られたのだ。」

亘理『上着とか着たらいいのに』

悠「それはまだ速い気がする。」

雨「カイロ張ってるやつが何言うのか…」

悠「カイロは服じゃないし」

雨「わかってるわ!」

千世子「クッレルヴォは怪力の持ち主で、剣で着いても日で焼かれても死なない不死身の身体を持っていたのだ。ただし、クレッルヴォはその怪力を制御できず、子守をすれば子供を殺し、畑仕事で畑を壊すありさまだったのだ。また性格も粗暴で卑屈であったのだ。」

摩耶「力の余ってる粗暴で卑屈って嫌だね。」

悠「行動力のある馬鹿並に迷惑」

神姫「……ああ、自分のこと?」

悠「はっはっ、何をおっしゃる兎さん」

神姫「誰が兎よ」

悠「ともき」

千世子「クレッルヴォの人生には良い出来事がほとんどないのだ。まず主人ウンタモはクッレルヴォをもてあまして鍛冶師に売り払う。そこでクッレルヴォは、鍛冶師の妻がイタズラしたせいで、父の形見の短剣を折ってしまうのだ。怒ったクレッルヴォは鍛冶師の娘を殺してしまった。梶氏の家を逃げ出したクッレルヴォは母や家族と再会。その後金髪の乙女と出会ったクッレルヴォは彼女と一夜を共にするが、その後の会話で彼女がクッレルヴォの妹だということが判明。妹は自殺し、クッレルヴォはようやく得た家族を失ってしまったのだ。」

亘理『とんだ人生だね。』

悠「人生は奇想天外だ」

神姫「悠がいうとなんかねぇ…」

悠「え、なんでなんで?」

摩耶「悠君の場合は奇想天外から寄ってくるんだろうけどね。」

悠「え、なんでなんで?」

千世子「相次ぐ悲劇の原因をウンタモと考えたクッレルヴォは、単身ウンタモを殺しに向かうのだ。道中伝えられる親族の死、母の死に耐えながら、クッレルヴォはウンタモとその一族を虐殺。すべてを失ったクッレルヴォは、悲しみに耐えられず自殺したのだ。」

神姫「トラブルメーカーだからでしょ」

悠「シューター!」

亘理『そこはしっかりと』

摩耶「まぁ、悠君の数少ないいいところだから」

悠「へへっ」

雨「数少ないっていわれてるわよ」

千世子「粗暴で卑屈な性格を持ち、軍事的英雄でもないクッレルヴォは、よくある英雄像とは程遠い人物なのだ。しかし北欧神話の英雄物語には悲劇がつきもの。そういう意味で、人生を悲劇だけで彩るクッレルヴォは実に北欧らしい英雄ともいえるのだ。」

悠「褒めてるよな?」

摩耶「うん、褒めてるよ」

悠「へへっ」

亘理『褒めてるんだ』

神姫「数少ない分、要領は大きいんじゃない?知らないけど」

千世子「また、クッレルヴォの卑屈で粗暴な人格が、本人の責任でないことにも注意したいのだ。幼いクッレルヴォを殺そうとしたウンタモやその家族、使用人を騙す鍛冶師の妻など、クッレルヴォの周囲にはまともな大人がひとりもいなかったのだ。以上、クッレルヴォはーのじゅぎょーだったのだ。」
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