ー奇談ー學校へ行こう

ー教室(2/9/夜)ー

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業がはじまろうとしていた。

千世子「じゃあ、今日のじゅぎょーをはじめるのだ。」

【トヨタマビメ】
生息地域:日本
出典:日本の神話「古事記」「日本書記」

悠「あ、ぴよこ」

千世子「なんなのだ?」

悠「明日ラスタ来いよ」

千世子「ラスタ?」

悠「池袋にあるバーだ。場所が解らなかったら……摩耶」

摩耶「うん。僕と一緒にいこうか」

千世子「わかったのだ」

悠「神姫も良ければ来いよ場所はあとでメールしとくから」

神姫「気が向いたらね。」

悠「花描君はダイジョブだな」

花描「余裕だ。」

千世子「じゃ、再開するのだ。日本でもっとも古い歴史書「日本書記」や「古事記」によれば、天皇家は神の血を引いている。だが実は「日本書記」によると、天皇家には神だけでなく龍の血が混じっているのだ。天皇家の先祖になった龍神、それがトヨタマビメなのだ」

摩耶「悠君は小鳥遊の血が流れてるよね」

悠「いや、魔悔堕血(まぶだち)が流れてる」

千世子「トヨタマビメの夫は、日本の初代天皇である神武天皇の祖父「ホオリ」なのだ。ホオリはおとぎ話「海彦山彦」の主人公である「山彦」と同一人物なのだ。」

花描「海彦山彦ってどんなはなしだ?」

悠「山彦は兄の海彦から借りた釣り針をなくして、これを探すために海底の城に向かう話。」

千世子「そうなのだ。そこで山彦ことホオリはトヨタマビメと出会って結婚することになったのだ。」

神姫「えらい展開ね。」

千世子「針をみつけたホオリは地上に帰ってしまうが、トヨタマビメもホオリの後をおって地上にあらわれ「あなたの子供を産むときがきた」といって出産準備に入る。鵜の羽で屋根を作り、出産小屋にしようとしたのだが、お産が急だったので屋根の製作が間に合わなかったのだ。トヨタマビメは小屋の中で本来の龍の姿に戻り、男の子を出産したのだ。この赤子は、鵜の羽で屋根を作るのが間に合わずに生まれることから「鵜草蕈不合命」と名付けられたのだ」

摩耶「うがやふきあえずのみこと…長っ」

千世子「トヨタマビメはお産のときに龍に戻るのを見られたくなかったので、「絶対に小屋の中を見ないように」といっていた。だが、ホオリは約束を破って小屋の中を見たため、彼女は恥じて海に帰り、二度と帰ってこなかったというのだ。」

悠「見るなといわれたら見たくなるものだ」

神姫「目突きしたらいいのに」

悠「駄目ずぇったい」

千世子「一説によると、トヨタマビメとホオリの結婚神話は、天皇の支配権が広がっていく様子を神話の形であらわしたものだと説明されるのだ。天皇家が日本の支配権を確立する以前、日本の国土は各地域ごとの豪族が支配していた。海底に住むトヨタマビメの一族は、海岸に住み、漁業で生計を立てる部族を表しているのだ。天皇家の先祖であるホオリがトヨタマビメと結婚したのは、天皇家の支配権が海辺の民族にも行き渡ったことを表しているといるわけなのだ。以上、トヨタマビメのじゅぎょーだったのだ。」
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