ー奇談ー學校へ行こう9

ー教室ー

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業が始まろうとしていた。

義鷹「よう」

揺光【おう。なんじゃ】

義鷹「お前井戸に変なもの捨てなかったか?」

揺光【否、心当たりはないが?】

義鷹「そうか……。」

悠「なんかあったのか?」

義鷹「いや、妙なモノが釣れてな」

千世子「はーい、じゅぎょーしますなのだ。ダンピールのじゅぎょーのつづきなのだ。ダンピールは、「吸血鬼退治の儀式」で生計を立てているのだ。吸血鬼はセルビアやバルカン半島の村人たちにとって現実的な脅威だったので、ダンピールは村人から多額の報酬を受け取り、かなり良い暮らしをしていたようなのだ。」

摩耶「なにが釣れたの?」

義鷹「これだ」

手足のある魚のようなもの【ギェー、ギェー】
びちびち

亘理『キモっ?!』

揺光【これは魔界の生き物じゃな】

千世子「もちろん現代の科学的視点から見れば、ダンピールの吸血鬼退治は、ありもしない恐怖で人間をおどし、金を出させる霊感商法に近いのだ。そして、それを行うダンピールの中にもかなり胡散臭い人物が多かったのだ。しかし村人たちにとってはダンピールが怪しいのは「吸血鬼の子供なのだから当たり前」という解釈となり、吸血鬼やダンピールの実在を疑う者は非常に少なかったのだ。」

悠「あの井戸って地獄に繋がってるんだからいてもおかしくないんじゃないのか?」

義鷹「地獄と魔界は別もんなんだよ」

揺光【うむ。まぁ、大した違いもないがな】

神姫「それで、どうするのソレ」

義鷹「……居るか?」

「「「『いらない』」」」

千世子「ダンビールという名前はセルビアで使われているものだが、もとはアラビア語で「葉で血を吸う者」という意味があるらしいのだ。セルビア以外の地方では吸血鬼の子供として生まれた吸血鬼ハンターは別の名前で呼ばれているのだ。」

・ヴァンピール……子供が男性だった時の呼び名。女性の場合はヴァンピーラと呼ばれる。

・ヴァムピーロヴィチ……セルビア。一生悪臭を放つ。

・グロック……ブルガリア。

・ビリ・ルカド……アルバニア。吸血鬼の息子という意味で、タンバリンを使って吸血鬼と戦うのはこれ。

・アブラシ……バルカン半島の遊牧民、アムロン属での呼び名。名前は「金髪」という意味で、髪と肌が黄色いことからこの名前で呼ばれた。

義鷹「じゃあ、食うか」

悠「えっ」

義鷹「ガリっ、バリッボリッ!」
手足の生えた魚のようなもの『ギャアァァーー……』

摩耶「丸かじり」

神姫「おいしいの?」

義鷹「……不味いなぁ」

千世子「ダンピールによる吸血鬼退治の儀式は、20世紀中ごろまで実際に行われていたのだ。記録に残っている最後の「ダンピールの吸血鬼退治は」1959年に、のちにアメリカとヨーロッパ各国の連合軍が空爆したことで有名なコソボ地方で行われたのだ。これ以降、ダンピールが活動したという記録は残されていないのだ。」

悠「久々に義鷹の妖怪らしいところを見た…」

義鷹「火を通せば普通に食えると思うぞ。毒もなかったし」

亘理『え、なに、どんな味なの?っていうか、魚?』

義鷹「……鶏肉?」

神姫「まさかの鳥…」

千世子「ダンピールは東欧からいなくなったが、吸血鬼とヴァンパイアハンターの伝統は現在でも生きているのだ。ダンピールの本場であるセルビアでは、2007年に、ヴァンパイアハンターを自称するカメラマンが、かつての大統領ミロシェビッチの墓を襲撃し、遺体の心臓に杭を打ち込もうとする事件が発生したのだ。」

悠「へ、ヘルシーそうだな」

義鷹「釣ってきてやろうか?」

悠「遠慮します」

揺光【娘に土産として持って帰ってやれば善いじゃろ。奇妙な生き物をほしがっていたではないか】

悠「却下」

千世子「2000年に亡くなったミロシェビッチ大統領は、他民族虐殺の主犯として国際戦犯法廷に起訴されたいわくつきの人物なのだ。自称ヴァンパイアハンターは、元大統領を「悪人なので、滅ぼさないと吸血鬼になる」と言い張り、政治的なパフォーマンスとしてこの暴挙を行ったのだ。以上、ダンピールのじゅぎょーだったのだ。」
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