ー奇談ー學校へ行こう9

ー教室ー

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業が始まろうとしていた。

悠「温かいって素晴らしいな!」

義鷹「いつになく元気じゃんか」

摩耶「春だから」

神姫「虫と一緒で暖かくなると活動的になるのね」

雨「いっしょにするな!」

【ヴァルコラキ】

千世子「はいはい、じゅぎょーなのだ。バルカン半島東部の国、ルーマニアに伝わる吸血鬼ヴァルコラキは物理的に考えれば吸血鬼の中で最強の力を持つといっても過言でもないのだ。なんとヴァルコラキは、太陽と月を食べてしまうほどの力を持っているのだ。」

悠「な、なんだってー!」

亘理『声は驚いてるのに顔は真顔』

摩耶「ボケをやるなら全力でやろうよ」

悠「全力で……ボケる!」

雨「全力で黙っててもらいたいわね。」

千世子「ヴァルコラキの姿や大きさは、伝承によって様々に変わるのだ。ある伝承では犬より小さく、別の伝承では龍の姿や、沢山の口を持ちタコのように吸いつく獣の姿をとるのだ。また、ヴァルコラキは人間の姿になることもできるのだ。人間になったヴァルコラキは、顔が青く、皮膚の乾いた姿になるとされているのだ。このほかにも頭がふたつある犬だとか、実体ない霊的存在だという伝承もあり、とにかく多彩な姿を持つ吸血鬼なのだ。」

神姫「無理でしょ。マグロが止まったら死ぬように、悠もボケてないと死ぬのよ」

悠「へへっ」

亘理『なんで誇らしげ?!』

摩耶「悠君だし」

義鷹「それで片づけようとすんなよ」

千世子「ルーマニア南部のワラキア地方では、この吸血鬼はプリクリウスという名前で呼ばれているのだ。プリクリウスは、昼間は美青年の姿をしているが、夜は大きな黒い狼に変わり、出会った者の血を吸うという、人狼と吸血鬼の中間のような存在なのだ。」

悠「黒い大きな犬ならうちのバロンも人狼という説が微レ存…」

摩耶「バスカヴィルじゃない?」

亘理『なにそれ』

悠「シャーロックホームズ。」

亘理『?』

千世子「ヴァルコラキは、太陽や月を食べる吸血鬼なのだ。まずヴァルコラキは、吸血鬼化した肉体を深い眠りにつかせて幽体離脱するのだ。空中に浮かびあがったヴァルコラキの霊体は、空を食い荒らしながら進み、ついには太陽や月を食べてしまうのだ。」

悠「そもそも月や太陽って美味いのか?」

摩耶「美味しくはなさそうだよね。熱いのと硬いのって感じ」

義鷹「神を気取るのに大それたことをしたい的なアレだろ」

悠「義鷹はどうなんだ?」

義鷹「太陽がなかったら昼寝できない。月がなかったら月見出来ないだろ」

亘理『そういう理由?』

千世子「人間がヴァルコラキになる原因は、洗礼をうけない、神に呪われた、未婚の母親から生まれた子供が死んだ、など、他の吸血鬼と似た理由が多いが、これとは別に、生活上のタブーを犯すことでヴァルコラキが産まれるとする言い伝えもあるのだ。ルーマニアでは、トウモロコシのおかゆを火にこぼしたり日暮れ時に掃除をしてホコリをはき出すとヴァルコラキが誕生し、天に昇って太陽や月を食べるので、こういったことはしてはいけないと教えられるのだ。また、夜中に灯もつけずに糸を紡ぐと、その糸を伝ってヴァルコラキが天に昇り、月を食べるという言い伝えにも同じ意図があるのだ。」

神姫「つまり食べようと思ったら食べられると?」

義鷹「さぁ、どうかね」

亘理『悠ちゃん、コイツ悪いやつだ』

義鷹「なんでだよ」

悠「義鷹は……セーフだろ」

亘理『悠ちゃんは義鷹に甘い!』

千世子「太陽や月が、ほかの天体に隠れてしまう「日食」「月食」という現象は、古くから「モンスターが引き起こす怪奇現象」として世界各地で恐れられてきたのだ。太陽や月を食べる犯人は、地域によって竜、魚、蛇などがあるが、その原因が吸血鬼だと考えるあたり、さすがにルーマニアは吸血鬼の本場と言えるのだ。以上、ヴァルコラキのじゅぎょーだったのだ。」
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