ー奇談ー學校へ行こう9

ー教室ー

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業が始まろうとしていた。

悠「あー、ホッペ痛い」

摩耶「あったかくなった?」

悠「熱持ってるだけだわ」

義鷹「冷気を吐いてやろうか?」

悠「冷凍保存されりゅぅぅ~」

千世子「じゅぎょーしますなのだ。ヴリコラカスの続きで、ヴリコラカスは「吸血鬼」の一種だが、意外に血を吸わないものが多いのだ。彼らにとって人間の血を吸う行為は、数ある特徴のひとつにすぎないのだ。」

摩耶「レンジでチンするには大きいよね」

神姫「砕けばいいわよ」

悠「仮に凍った時には自然解凍で頼みます」

義鷹「冷気ブレスいるのか?」

悠「いらない!」

千世子「血を吸わないどころか、人間を殺さない、無害なヴリコカラスもいるのだ。『コリントの花嫁』の元ネタになった少女フィリニオンや「サモス島の花嫁」などがその代表格なのだ。ヴリコラカスのなかに無害なものがいるのには理由があるのだ。これら無害なヴリコカラスと、ひとを殺すヴリコラカスは、語り継いできた民族が違うのだ。」

摩耶「どのくらいの種類のブレスだせるの?」

義鷹「ありたいていのものは吹きだせる。毒とかもな」

悠「ブレス便利だな。マイナスイオンとかは出せるか?」

義鷹「……」

悠「なんか睨まれてる気がする」

千世子「ギリシャには、もともと自分たちを「ヘレネス」と呼ぶ民族が住んでいたのだ。だが七世紀ごろ、北からスラブ人という民族が移住してきたのだ。このためギリシャには、ヘレネスの文化とスラブ文化が混在しているのだ。少女フィリニオンの物語からもわかるとおり、ヘレネス達はもともと「無害な動く死体」の伝承を持っていたのだ。これがスラブ人の危険な吸血鬼と混じりあった結果、スラブ由来のものも、ヘレネス由来のものも、動く死体は全て「ヴリコラカス」と呼ぶようになったらしいのだ。」

神姫「気がするじゃなくて睨まれてるでしょ」

悠「マジか……マイナスイオンじゃなくてプラズマイオンなら?」

義鷹「雷なら吐きだせるが?」

悠「停電になったとき頼むよ」

摩耶「そこには黒焦げになった悠君が…」

悠「NO!」

千世子「ギリシャでは吸血鬼のことを「ヴリコラカス」とよぶ、これは間違いない事実なのだ。だが「ギリシャのヴリコカラスは吸血鬼だ」と言われると、正しいとは言いにく手のだ。実はヴリコカラスと呼ばれる怪物の中には、血を吸わないどころか、死体ですらない。明らかに吸血鬼的ではないものが存在するのだ。」

亘理『悠ちゃん、そこまでして温かくなりたかったなんて』

悠「いや、黒焦げは勘弁ですよ?」

摩耶「ほど焼けなら……」

悠「ミディアムレアも却下!」

義鷹「蒸し焼きがいいのか?」

悠「どうしても焼きたいのかおれのことを……」

千世子「ギリシャ国内でもっともトルコに近い島のひとつ「レスボス島」では、ヴリコラカスののなかには「生けるヴリコラカス」がいると信じられているのだ。死せるヴリコラカスはここまでじゅぎょーしてきた吸血鬼のことだが、生けるヴリコラカスは、満月の世にさ迷い歩く夢遊病者で、人や獣に襲いかかると言われているのだ。これは明らかに人狼(ワーウルフ)の特徴なのだ。」

神姫「焼くのなら私も出来るわよ。橙竜の……」

悠「焼かなくていいですってば!」

摩耶「じゃあ、亘理ちゃんに妬いてもらうとか?」

亘理『え?』

悠「なんの話しだ?」

亘理『…がぶっ!』

悠「……今日は踏んだり蹴ったりな日だなぁ」

千世子「そもそもヴリコラカスという名前は、古いスラブ語でジンロウという意味だった言葉が変化して生まれた単語なのだ。ヴリコラカスという名前が出てきたとしても、吸血鬼のこととは限らないので注意した方がいいのだ。以上、ヴリコラカスのじゅぎょーだったのだ。」
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