ー奇談ー學校へ行こう9

ー教室ー

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業が始まろうとしていた。

悠「コーヒー飲みたいな」

摩耶「角砂糖50個くらい煮溶かしてるやつ」

悠「それもうコーヒーちゃう。砂糖汁や」

亘理『でも、加糖のコーヒーってそのくらい入ってるんじゃなかったっけ?』

悠「いくら加糖でも50個はない。50個はない。」

摩耶「二回言ったね」

【ヴァインリキウス】

千世子「はい、じゅぎょーしますなのだ。伯爵夫人エリザベートが血の宴を始める少し前にあたる1591年には、ドイツの東側の隣国ポーランドにも吸血鬼が現れていたのだ。ポーランドの南西部の都市ブレスラウにあらわれた吸血鬼は通称「ブレスラウの靴屋」のだ。本名は確実ではないが、ヴァインリキウスだったと伝えられているのだ。イギリスの神学者、ヘンリー・モアの記録「無神論への解毒剤」によれば、ブレスラウの靴屋は、死後しばらくたってから、昼夜問わず人前に現れるようになったのだ。その姿は生前の靴屋そのままだったというのだ。」

義鷹「悠。」

悠「あら、義鷹どうした?」

義鷹「お前最近墓とかに出入りして女とあってないか?」

亘理『女?』

悠「墓に出入りする趣味はないぞ」

義鷹「そうか。お前じゃなかったか」

千世子「復活した靴屋は、音を立てて寝ている人を起こしたり、体にのしかかるなどの他愛もない悪事をするだけだったが、ブレスラウの市民達はこれを恐れ、日常生活に差し支えるようになったのだ。事態を重く見たブレスラウの市議会は、靴屋の死体を掘りだし、「目につくところに置く」「絞首台の下にさらす」などの方法で無力化しようとしたが効果なし。逆に吸血鬼の行動はエスカレートし、人間の首を絞めたり、人前で猛烈に暴れ回るようになったのだ。」

摩耶「何事?」

義鷹「最近ここの近くの墓から骨女が出たらしくてな」

悠「骨女って……男をたぶらかしてたぶらかされた男は骨女が美女に見えて生気を奪っていくって妖怪だっけ」

義鷹「それだ。」

神姫「なるほど、悠が関係してそうね。」

悠「なんで?!」

千世子「最終的に靴屋の遺体は、首と両手首を切断されたあと火葬され、灰や骨は袋に詰めて川に流されたというのだ。こうしてようやく、靴屋の吸血鬼は姿を消したのだ。」

義鷹「お前は妖怪の女でも関係ないだろ」

悠「どういう意味でだよ」

義鷹「女衒師って意味だ」

悠「女衒ってお前……」

亘理『ぜげんしってなに?』

神姫「主に若い女性を買い付け、遊郭なんかで性風俗関係の仕事を強制的にさせる人身売買の仲介業のことよ」

千世子「靴屋が「吸血鬼になった」と信じられた理由は、彼が自殺者だったからなのだ。」

亘理『悠ちゃん!!』

悠「してねーよ!そんなこと!!」

摩耶「若い女を蕩して自分のものにしてるだったら完璧当てはまる」

悠「泣くぜ?そろそろ本気で泣くぜ?」

義鷹「お前が関係してないなら放置でいいか」

千世子「キリスト教では、人間の命は神が与えた尊いもので、自分で命を断つことは神への裏切りと考えるのだ。そのため自殺者は、正式な葬式をしてもらえないのだ。これはキリスト教徒として非情に恥ずかしいことなのだ。そこで靴屋の妻は、自殺の痕跡を隠し、脳卒中で急死したことにして正式な葬儀をあげ、家の名誉を守ろうとしたのだ。」

悠「おれが関係してたらどうしてたんだ?」

義鷹「たぶらかされてたなら骨女を食ってたな。物理的な意味で」

摩耶「本当の捕食」

悠「モンスターイーター」

亘理『モンハンとGEコラボ?』

千世子「ところが東欧では、自殺者の遺体は吸血鬼になると信じられているのだ。吸血鬼化を防ぐには、しかるべき対策を取る必要があるのだが、普通の死者と同じように埋葬された靴屋には、吸血鬼化対策がされていないのだ。」

摩耶「妖怪は一応モンスターだからね。」

悠「っか、義鷹は何だかんだでおれに優しいよな心配してくれるし」

義鷹「つまらん妖怪に殺されたら面白くないから」

悠「ツンデレ」

亘理『まさかのライバル!!』

雨「亘理、アンタ色々といいのか?それで…」

千世子「ブレスラウの街では、靴屋の死後に「靴屋は自殺していた」という噂が広まっていたのだ。靴屋は自殺者なのに普通の葬式をあげているため吸血鬼化対策をしていないことは明らかなのだ。そのため民衆は「このあと靴屋は吸血鬼になる」と恐怖して、本来なら存在しない吸血鬼を「実際に見た」と思いこむようになったわけなのだ。以上、ヴァイリンキウスのじゅぎょーだったのだ。」
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