ー奇談ー學校へ行こう9

ー教室ー

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業が始まろうとしていた。

千世子「はいはい、あんちん。そろそろ起きるのだ」

悠「このままじゅぎょー駄目?」

千世子「ダメなのだ!」

悠「ちぇ」

摩耶「でも、元気になったね」

悠「オフコース!」

【エレオノラ・アマリー】

千世子「はい、じゅぎょーしますなのだ。吸血鬼になるのは、ペーター・プロゴヨヴィッチのような庶民ばかりではないのだ。東ヨーロッパの国オーストリアには「エネオノラ・アマリー」という貴族の女性が、吸血鬼になる病気で死んだという奇妙な記録が残っているのだ。」

悠「膝枕のヒーリング効果って高いよな」

摩耶「どのくらい?」

悠「……猫の肉きゅう。いや、それは行き過ぎか」

亘理『むしろ猫の肉きゅうのヒーリング効果ってそんな高いの?!』

悠「めっちゃ高い。もりもり元気になる」

千世子「エレオノラは、貴族の中でも最高位である侯爵家の妻となった高貴な女性なのだ。何不自由なく豊かな生活を送る彼女にとって最大の悩みは、世継ぎとなる子供がうまれないことだったのだ。苦悩の末に彼女がすがりついたのは、「狼の乳を飲むと子供が授かる」という背徳的な迷信だったのだ。当時、狼は「悪魔の仲間」と考えられていたのだ。つまり狼の乳を飲むことは悪魔の力を借りることであり、魔女と呼ばれてもおかしくない悪徳だったのだ。」

悠「おっぱいのヒーリング効果と同等と言われてるのが猫の肉きゅうだからな」

摩耶「だってさ」

神姫「……」

亘理『……』

雨「……」

悠「おや、皆の視線を独占しちゃった」

千世子「エレオノラが41歳のとき努力が実り、彼女は41歳で男の子を出産したのだ。これは、現代でも危険視されるほどの高齢出産なのだ。医療技術が未発達な18世紀では考えられないことで、そのため人々は「エレオノラは何か魔術を使ったに違いない」と噂したというのだ。さらに彼女の夫が死ぬと、夫の親族が「魔術を使うような女に後継ぎを任せられない」と、彼女から息子を取り上げてしまったのだ。」

神姫「命を取り上げたらいいかもね。悠から」

悠「それ死んじゃいますって」

アリス『いいの?』

悠「よくないよ!」

摩耶「抜かりないね。」

悠「虎視眈眈っと狙ってるからな」

千世子「夫と息子を童子に失ったエレオノラは、悲しみから引きこも、さらに体調を崩してしまうのだ。エレオノラの体調不良の原因が分からない医師達は、彼女を「魔術を使った罰として、吸血鬼になる病気にかかった」と診断したのだ。その後、エネオノラは体調が回復することなく、60歳で亡くなったのだ。」

亘理『アリスちゃんはいつも出たり消えたりしてるけど……ワープしてるの?』

アリス『ふふっ、秘密よ♪』

亘理『秘密かぁ…』

アリス『でも、ちょっとだけおしえてあげる。アリスはね、どこにでも出られるわけじゃないの。でも、ひとつだけ決った処には出て来れるのよ』

亘理『う、うーん……?』

アリス『うふふ』

千世子「エレオノラの遺体は、死後に解剖されているのだ。当時、解剖というのは罪人に対して行うもので、貴族の遺体を解剖するなどということはまずあり得なかったのだ。」

摩耶「僕なんとなくわかったよ」

亘理『どういうこと?』

摩耶「つまりアリスちゃんはある特定の場所だけにはいつでも現れることができる。それが……悠君ってことじゃないかな」

悠「おれ?」

摩耶「ゲーム風に言うとワープポイントかな。アリスちゃんの場合は得物だけど」

悠「あぁ、おれに半分取り憑いてるからおれの処には瞬時に現れれると…」

千世子「この解剖は、解剖の名を借りた「吸血鬼退治」だと考えられているのだ。彼女が吸血鬼として復活することが無いように遺体を処理しつつ「身内から吸血鬼を出した」という不名誉を避けるため、記録には「解剖」と書いたのだ。」

亘理『んー……じゃあ、やっぱり私も悠ちゃんに取り憑いたら此処から出入りできるようになるかな』

悠「おれに取り憑くっていうのをやめようぜ」

神姫「死神と厄病がついてるんだから今更ひとつふたつ増えてもいいんじゃない?」

悠「一応座敷わらし(笑)も憑いてるんだけどな」

亘理『なら、私も是非!』

悠「機会があったら…」

亘理『がるるる!』

悠「そこで唸るなよ…」

千世子「エレオノラの遺体は、侯爵家代々の墓に入れることを許可されず、遠く離れた町の教会にひとり埋葬されたのだ。棺の上には石や土などが何重にも積み重ねられ、エレオノラが吸血鬼になって蘇らないよう、厳重に封印されていたのだ。孤独の中で亡くなったエレオノラは、死後も孤独のままだったのだ。以上、エレオノラのじゅぎょーだったのだ。」
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