ー奇談ー學校へ行こう

ー教室ー

夜八時きっかり、夜の廃校のある教室で号令がかかった。

千世子「きりーつ、礼。ちゃくせき。点呼をとります、悠のあんちん」

悠「ちぇき~」

千世子「まーや」

摩耶「は~い」

千世子「うむ、全員出席だな。えへへ」

千世子は自分の目の前にある教卓の上を磨くように撫でた。
その顔は百点満点。

もと教卓だったミカン箱は【あんちんの道具箱】とマーカーで書かれて昨日使ったトンカチや釘などを入れて隅に置いてある。

摩耶「よっぽど気に入ってもらえたみたいだね。」

悠「本当にな…っか、それよりあのトンカチとか普通に家で使ってるやつなんだけどな…」

摩耶「新しいの買わないとね」

悠「おいおぃ…」

千世子「コラー、あんちんもまーやも私語はダメだぞ!」

悠「へーい」

摩耶「はーい、チョコせんせー今日の授業はなんですか?」

千世子「もちろん、吸血鬼の授業だ。」

摩耶「好きだね~。」

悠「俺が知る限り吸血鬼でルスヴン卿からなら、分類分けしても三十八くらいは出てくると思うぞ」

千世子「吸血鬼は奥が深いからなしっかり勉強するように」

悠「へいへい」

摩耶「はーい、その前にチョコせんせー。吸血鬼以外にはどんな授業ができますか?」

千世子「妖怪、武器、格闘技、銃、宝石、ドラゴン、有毒生物、三国志、悪魔、天使、クトゥルー…何でも教えられるのだ!」

悠「何でもがかなり片寄ってるな」

千世子「量子力学とかも教えられるよ?あと、ラムジェット理論とか」

悠「結構だ」

摩耶「はいはーい、明日は妖怪の授業がいいです」

千世子「授業熱心な生徒は好きだぞ!わかった、なら明日は妖怪の授業だな」

悠「んじゃ、今日は和風ドラキュラの話を聞きたいな」

千世子「おぉ、不知火検校(しらぬいけんぎょう)だな!」

摩耶「あれ、聞いたことある?」

千世子「不知火検校は「髑骸検校」で活躍するから有名だよ。金田一耕介シリーズで有名な横溝正史が昭和十四年に産み出した作品ね。」

摩耶「ふむふむ。」

千世子「不知火検校は、いわば日本版のドラキュラ。だから、不知火検校の特徴はドラキュラ伯爵に酷似してる。秘術で復活させた美女、松虫と鈴虫をはべらせたり、屋敷のまわりを狼に守らせていること。コウモリや狼に変身する能力を持ってること。ニンニクを嫌うこと、もっぱら夜間に活動して、昼間は棺桶。どれもがドラキュラと同じなのだ。」

摩耶「物語の展開は?」

千世子「もちろん、同じ。不知火検校に狙われるヒロインがふたりいて、片方が夢遊病になること、頭のおかしい男を手下に使うこと、吸血鬼をよく知る蘭学者(ヘルシング教授の日本版)があらわれることなど、すべてが和風ドラキュラと呼ぶべき構成になってる。」
摩耶「パクリ?」

悠「いや、そっくりだけどこれが安易な盗作や模倣品じゃないんだ。ドラキュラの物語や人物設定をそのままに、物語を単なる怪奇物語から陰惨な復讐劇に作り変えてる」

千世子「他にも不知火検校は女性のうなじから血を吸ったり、検校の近くによく人魂が現れたり、棺桶の中で休む吸血鬼が死体じゃなく骸骨の姿をしてたりするんだぞ。」
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