ー奇談ー學校へ行こう8

ー教室ー

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業が始まろうとしていた。

亘理『よいしょっと』

悠「さも当然のようにおれの背中に張り付くよな」

亘理『当ててんのよ!』

悠「確かに当たってるけど、それをいうタイミングが大間違いだろ」

摩耶「でも、本心は?」

悠「弾力があって暖かくて最高!」

【不知火検校(しらぬいけんぎょう)】

千世子「あんちんのスケベは置いといてじゅぎょーしますなのだ。吸血鬼はヨーロッパの妖怪だけど、外国文化を貪欲に吸収してきた日本には、もちろんオリジナルの吸血鬼が存在するのだ。金田一耕助シリーズでおなじみの文豪、横溝正史が昭和14年に生み出した「不知火検校(しらぬいけんぎょう)」は、そのなかでも古い部類のキャラクターなのだ。ただし、不知火検校は、横溝正史の完全オリジナルではないのだ。不知火検校が活躍する作品「髑髏検校」は、あの「ドラキュラ」を日本風に味付けし直した作品であり、不知火検校はいわば、日本版ドラキュラなのだ。」

神姫「……」

悠「神姫さん?」

神姫「なに?」

悠「いえ、何か視線が痛かったので…」

神姫「年が明けても変わらない……って思っただけよ」

摩耶「むしろ豹変してたほうが怖くない?」

神姫「豹変でもしないと良い方に変わらないでしょ」

千世子「そのため不知火検校の特徴はドラキュラ伯爵に酷似しているのだ。秘術で復活させて美女(松虫と鈴虫)をはべらせたり、屋敷のまわりをオオカミに守らせていること。コウモリや狼に変身する能力を持っていること。ニンニクを嫌うこと。もっぱら夜間に活動し、昼間は棺桶(ドラキュラと違って和風の棺桶だが)に入っていること。どれもドラキュラの特徴と同じなのだ。」

悠「おれが変わっちゃったら困るだろ」

神姫「何に」

悠「ええと……ぱ、パワーバランス?」

神姫「チョキで殴っていい?」

悠「確実に目玉にダメージ受けそうなんで勘弁してくだちゃい」

雨「貫かれてしまえ」

千世子「物語の展開も同様で、不知火検校に、狙われるヒロインがふたりいて、片方が夢遊病になること、頭のおかしいおとこを手下に使うこと、吸血鬼をよく知る蘭学者(ヘルシング教授の日本版)が現れることなど、すべてが和風ドラキュラと呼ぶべき構成になっているのだ。」

亘理『目、目はやめてあげて?』

神姫「なら、鼻?」

悠「削がれる未来が見えた…」

摩耶「殴り砕かれる可能性も」

亘理『聞いてるだけで痛い…』

千世子「不知火検校とドラキュラの目立った違いは、不知火検校は女性のうなじから血を吸うことや、検校の近くによく人魂が現れること、棺桶の中で休む吸血鬼が、死体ではなく骸骨の姿をしていることなのだ。」

悠「年明け早々大怪我したくないです」

神姫「いいじゃないの」

悠「駄目よ~駄目駄目」

神姫「弾針剄」

チュドン!
悠「ごふぁっ!!」

バッ
亘理『ハッ!?』

摩耶「ナイス回避」

千世子「何から何まで「ドラキュラ」そっくりの「骸骨検校」だが、この作品は安易な盗作や模倣品ではないのだ。作者の横溝正史は、ドラキュラという骨組みにたくみな肉付けを行い、この作品を非常に魅力的なものに仕上げているのだ。」

亘理『ご、ごめんね悠ちゃん』

悠「いや、平気……だ。」

雨「亘理が居たのに容赦ないわね…」

神姫「亘理が後ろに居るのなら悠は絶対に避けれない……でしょ?」

雨「お、鬼だ」

摩耶「残念、龍だね。」

神姫「龍であり神であり姫よ」

千世子「この作品の舞台は、徳川幕府が日本を統治していた江戸時代後期の日本。ヒロイン二人の片方は、徳河将軍家のお姫様なのだ。そして不知火検校の正体は、かつて徳河家に反乱を起こして殺された若きキリスト教徒、天草四朗時貞なのだ。天草四朗は幕府への復讐のために江戸の街を襲い、姫に手をかけていくのだ。横溝正史は「ドラキュラ」の物語や人物設定に独自のアレンジを加えることで、物語を単なる怪奇物語から陰惨な復讐劇に作りかえることに成功しているのだ。以上、不知火検校のじゅぎょーだったのだ。」
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