ー奇談ー學校へ行こう8

ー教室ー

毎夜行われる、浮き世離れした夜の授業。
今日も取り壊されないまま、時代から取り残された廃校で授業が始まろうとしていた。

千世子「うー、寒いのだ」

悠「『毛糸のパンツを履きなさい』」

Q子『毛糸のパンツを履くのです。ふぉっふぉー!』

悠「ひとの背後で何を呟いてる!」

摩耶「背後っていうかめり込んでるね。」

Q子『幽霊秘儀!貫通!』
ズブブ!
悠「やめんかい!!」

【フランシス・ヴァーニー】

千世子「えーと、はい、じゅぎょーしますなのだる吸血鬼は、白木の杭や日光などの限られた方法でしか滅ぼせない、不死身の怪物なのだ。そのなかでも特にしぶといのが、吸血鬼フランシス・ヴァーニーなのだ。なぜなら、彼は、吸血鬼の弱点をついても滅ぼしても、何度も復活してくるからなのだ。」

神姫「滅びないのはこの淫霊も同じよね」

摩耶「つまり悠君が滅びないのも同じ理由……ふたりの共通点は……」

Q子『エロパワーよ!』

悠「いっしょにすんな!」

雨「一緒でしょ?」

千世子「フランシス・ヴァーニーは、吸血鬼小説の代名詞「ドラキュラ」の50年前、1847年にイギリスで出版された「吸血鬼ヴァーニー、血の餐宴」の主人公なのだ。ヴァーニーは騎士のような服を好み、鉛のような瞳と鋭い牙を持っているのだ。この姿は、19世紀前半に多数の劇場で演じられていた吸血鬼像を踏襲したものなのだ。」

悠「一緒じゃない、おれのエロはこう気品というかユーモアに富んでる」

Q子『私はただいやらしいものをいやらしく、いやらしくないものもいやらしく、ただただいやらしく昇華しようとしてるのよ』

摩耶「うん、同じだ」

神姫「同じね」

雨「ね?」

悠「違うもん違うもん!違うんだもーん!」

スパン!スパン!

千世子「「吸血鬼ヴァーニー、血の餐宴」は全220章868ページにもおよぶ長大な作品なのだ。この長すぎる物語の中で、ヴァーニーは何度も死を迎えているのだ。あるときは首を絞められ、あるときは銃で撃たれ、あるときは吸血鬼の急所である心臓に杭を打ち込まれたのだが、彼はそのたびに復活するのだ。実はヴァーニーは、死体に月の光を浴びると、例え灰からでも復活するという特殊能力を持っているのだ。」

神姫「叩くわよ」

悠「既に叩かれました…」

亘理『わぁ、ほっぺが真っ赤…』

神姫「次は……」

悠「拳はやめて!」

神姫「平手よ。突くけど」

悠「刺す気じゃないですかヤダー!」

千世子「しかし何度も復活を繰り返すうちに、ヴァーニーの精神は永遠の生に疲れ果ててしまったのだ。彼は、彼の身体がけっして復活しないように、古代ローマの大都市ポンペイを一夜にしてのみ込んだ火山ヴェスヴィオスの火口にその身を投じて、永遠の生命と別れを告げたのだ。」

亘理『あっ』

摩耶「どしたの?」

亘理『ヴェスヴィオス火山てテルマエロマエ』

Q子『エロエロエロエロ?』

神姫「……」

ズブシュ!
Q子『あーれー』

悠「効果が無いようだ」

千世子「「吸血鬼ヴァーニー、血の餐宴」は、もともと「ペニー・ドレッドフル(小銭で買える恐怖雑誌)」と呼ばれる低俗な雑誌に連載されていた。ペニードレッドフルは刹那的な娯楽を追及する本なので、文学的価値よりもその場のインパクトを重視するのだ。そのためこの作品には、接待の整合性がまったくないのだ。」

神姫「コレだから幽霊は…」

摩耶「でも、幽霊にも当て身ができだしたら神姫さんが本当に人間離れしちゃうし」

神姫「あら、私は龍であり神であり姫なのよ?人間離れしてていいのよ」

摩耶「あはは。僕、神姫さんのそういう不敵なところ好きだよ」

神姫「ふんっ」

亘理『今のって告白!?』

雨「いや、あのふたりの間に流れてるのはそんな空気じゃないでしょ…。」

千世子「例えば物語の最初期、ヴァーニーは電気ショックで復活した死者だと説明されていたのだ。ところが話しが進むと、ヴァーニーは自殺者だったり、子供殺しの極悪人だったりと、その場の都合で設定がどんどん変えられているのだ。」

悠「頼むから神姫と摩耶ではやり合わないで……絶対に両方とも怪我するから」

神姫「殺り合うなら怪我するのは当然でしょう。」

摩耶「死合うならそうなるよねぇ」

悠「やめてくださいっ!お願いしますから!」

亘理『悠ちゃんが止めてる』

悠「止めないとな。ひとつの火種から池袋全域に炎が広がる可能性もあるんだよ。」

摩耶「多分、いつかはそうなるよ」

神姫「きっとそうね」

悠「やーめーてーぇ」

千世子「ともあれ、ロンドン市民が求める吸血鬼像を反映しているという意味で、この作品は価値のある一冊だ。ヴァーニーが造り上げた吸血鬼の典型的イメージは、その後「吸血鬼ドラキュラ」にもそのまま引き継がれているのだ。以上、フランシス・ヴァーニーのじゅぎょーだったのだ。」
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